しあわせ色

□贈り物
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「ねぇ、ローくん。相談があるんだ」







コンコンコン、と3回ノックのあと
扉から入ってきたのはソラ
その部屋の主のローを視界に入れると何故かおずおずを船長室に入り、そう口にした







相談とはなんだろうか、と作業をしていた手を一旦止めて
チラリとソラの姿を見るな否やローは普段とは違う彼女の姿に目を見開いた







ソラはいつも味気ない格好をする
それはシンプルなワンピースであったり
真っ白なTシャツに緩いパンツであったり
決して似合わないという訳では無いのだけれど女っ気のない格好をよくしていた





この船は海賊船であるし
彼女は歴とした戦闘員だ
動きやすい格好がいいと自ら選んで着ているのだからロー自身も構わないと思っている
そもそもクルーの服装をとやかく言うようなことはしない





まぁ、顔も良ければスタイルも悪い訳ではないのに勿体ないとイッカクがぼやいていたけれど







しかしその姿は普段の彼女とはかけ離れたもので、







彼女が纏っていたのは
広く襟元のあいたワンピース
淡いサクラ色をしたそれは細やかなレースと共にソラの細く長い綺麗な脚を隠し、足首の辺りまでふわりと続いている



ウエスト部分に作られた小さく控えめなリボンはなんとも可愛らしく、
しかしそのふわりと広がるワンピースは上品なマーメイドラインでしっかりと女性らしさも過持ち出していた






どうみても普段とは違う
明らかなそのよそ行きの姿にローは少しばかり動揺した






固まったままこちらをジッと見て動かないローに対してソラはどうしたんだい?と首を傾げる





実は自分のマスターが自身の普段とは違う女性らしい姿に惚けているなんて考えもしないソラは頭にはてなを浮かべるばかりであった






しかしそこでハッとする
もしかして早く内容を言え、と目線で催促されているのではないかと見当違いな考えを巡らせたソラは急いで口を開く






「えっと、ね、
この島のログは今日で溜まるでしょ?
昨日は船番だったから今日は観光に行きたいなあ、なんて思ってね…」





買いたいものがあるんだ、
そう言っている間も相変わらずこちらをジッと見るローを確認し、ソラはどこか居心地悪そうにあははと乾いた笑いを出した






うーん、怒ってる?
やっぱりわがままだったかな。
お気に入りのワンピースまで着て浮かれすぎかな






そう、このポーラータング号は現在とある島に上陸して2日が経っていた
島の名前は”ゴエタム”
海流の関係もあってか
その島は商業が盛んで、治安も悪くはなく活気ある島でよく栄えていた




ソラがこの船に乗って何度か島には上陸したけれど
どの島もゴエタムほど盛んな島ではなく
どちらかといえば自然豊かといった感じで
もちろんそんな島も好きなのだけれど、
なのでソラはこの島で観光をしたいと意気込んでいるのだ






1日目は物資調達があると皆船から降りてしまいその日はなんとも不運なことに船番を任されてしまったので大人しく船で皆の帰りを待っていた





まぁ、ローくんも船内にいたので退屈なんてものはもちろんしなかったけれど





この島のログが溜まるのは2日間。
食料や備品の調達など1日目にしなければいかないことも終わっているこの状況で
そう、つまり2日目は自由に島を観れるチャンスなのだ






やはり長年生きていても新しい場所への探究心などは尽きない
久しぶりの陸地ということもあるけれど
ゴエタム島に上陸することを考えるとワクワクと思わず胸が踊った






「ねえローくん行ってきてもいいかい?
もちろん問題は起こさない、大人しく過ごすから」




浮かれるなと怒られそうだけれど
口に出すだけタダだと、
そう思ったソラはそう続けて未だに惚ける彼に一歩近づけばようやく意識を取り戻したのかハッとしたローが反応をみせる







「…観光?
この島は治安は悪くはないし構わないが
なるほど、それでその格好か。」






含みを持たせるようにそう言って顔をそらし
ソラの着ているワンピースにチラリと目線だけをよこした





先程までソラの姿に惚けていたのにも関わらずいざ認識した途端に可愛らしくて真正面から見据えることが出来ない
そしてそんな心をソラに悟られないように
クールに繕ってみせるこの男の小さいこと




これでもちゃんとした賞金をかけられた海賊船の船長だというのだから驚きだ







そしてその目線に気づいたソラは
胸の前でいじいじと恥ずかしそうに指遊びをしながら照れたように言った






「このワンピースやっぱり浮かれすぎかな
でもお気に入りなんだ
マスターがね、私の為に選んでくれたんだ」






そう言ってソラはワンピースの胸元についてある金色のボタンに指を這わせた
その指先はとても優しくて愛おしそうで
そんなソラの仕草はそのワンピースがとても大切なものなのだとローに認識させるには十分な仕草だった






そしてその綺麗なワンピースの裾を摘んで
まるでローの感想を聞くかのようにひらりと靡かせてみせる





ふわりとした笑みを浮かべてワンピースの裾を掴むソラはまるで人形のよう
そのサクラ色は可愛らしいのに繊細なレースは上品でさらりと靡くスカートのラインは随分と大人びている




ソラの少女のような幼い面とお淑やかな女性的な面
その両方を表せるようなこの1着を選んだマスターとやらは余程センスがいいらしい




よくソラのことを見ているようで
しかしながらここまで似合うものを贈るということはきっと女のマスターなのだろう、などとローは勝手に思考を巡らせた





そう、もともと綺麗で可愛らしいソラが
似合っていないはずがないのだ







「あぁ、よく似合ってる
お前のマスターは趣味がいいな」





ニコニコとこちらを見るソラが可愛らしくて思わず素直に褒めてしまえばソラはマスターが褒められたことが嬉しかったのか
さらにぱぁっと明るい笑顔を見せる







「ありがとう!
そうなんだ、ジャーファルくんはセンスがとても良いんだよ

あの世界にいた時も時折り髪飾りなんかをプレゼントしてくれたんだ」








今も大事にとっているよ、そう言ってニコニコと笑うソラ





今のマスターに自分の大切な人を褒められるのはなんだか宝物を褒められた気がして彼女は嬉しいのだ






しかしそんなソラのセリフのある部分にローは静かに反応を見せた







「…ジャーファル、くん?
そのジャーファルくんとやらが、そのワンピースを贈ったのか?」






そう口にするローは先程褒めてくれたような柔らかな雰囲気ではなく
明らかに先程とは違って不機嫌で、、







「え…、うん
ジャーファルくんがくれたんだ」







それがどうかしたのかい…?
おずおずとそう付け足して
そんな不機嫌そうなローの態度にソラはどこか威圧感を感じながらそう答えた






突然ガラリと機嫌が変わったロー
何かしてしまっただろうか?
ソラはそんな態度のローに戸惑ったのか不安そうにその表情を曇らせた








もちろんのことソラは何も悪くない








このトラファルガー・ローという男
この服を選んだマスターは当然女であろうなどと勝手に想像を膨らまし
その結果そのマスターが男であると知って呆れることに嫉妬しているのだ






もし仮に自分がソラに何か服をプレゼントするのであればこれほど似合うものはきっと送れはしないだろう


しかもそのワンピースはあまりにもローの好みにドンピシャであるからして脱げ、なんてセリフ勿体無くて言えずにグッと堪えているのだ




なんとも情けない男である




しかも独占欲の強いこの男は
自身のお気に入りであるソラがマスターとはいえ別の男からの贈り物を身に纏っているのはどうも気分が悪く、








「そういえばゴエタム島は陽が落ちると随分と冷えると聞いた
上に何か羽織った方がいいんじゃないか?」






淡々とそう言いながらゴソゴソと自身のクローゼットを漁り、そこから1着服を取り出すとずいっとソラの前にそれを押しやった







そんなローの突飛な行動に
パチクリと1つ瞳を瞬かせたソラが渡されるがままに受け取ればそれはローが普段から愛用しているパーカーで
そこには大きくハートの海賊船のジョリーロジャーが描かれていた






脱がせられないのならさらに着せてしまえ
自身の服を上から着せて隠してしまおうなんて苦しいそして何とも格好の悪い作戦だ
情けないにも程がある






しかし、ローのそんな複雑な思いなど知らず






マスターから服を貸して貰えるなんて、
まさかそんなことが起きるなんて想像していなかったソラは嬉しくて嬉しくて、ついゆるゆると顔を綻ばせた







しかし誠に惜しいことに
今日はこのパーカーは羽織れない







「ローくん、心配してくれてありがとう
でもね、今日は観光に行くつもりなんだ
名の知れた海賊のジョリーロジャーなんて身に付けてしまっては皆怖がってしまうよ」





だから、ごめんよ。
そう残念そうにソラが眉を下げて言えば目の前のローの顔が盛大に顰められた







たしかにそうだ
ハートの海賊団は最近になって知名度がぐんぐんと上がってきている


目の前の酷く容姿の整っているこの女、ソラがジョリーロジャーを纏う
しかも最近になって世間を騒がしているハートの海賊団のジョリーロジャーなんて目立つものを身につけていてはいくら治安の悪くない島だとしても馬鹿な奴らに絡まれてしまう可能性がある


まぁ、こいつであればそんな輩どうにかできるのは安易に想像ができるけれど、
変な騒ぎを起こすのは得策ではないし
ソラに絡む馬鹿どもを想像するとなにぶん気分が悪い







何故自身の持っている服はオーダーメイドの特注しかないのだろうらと
どこか悔しそうに唇をグッと固く閉じている彼を見てソラはやはり首を傾げるしかなかった






しかしそこで、






「えっとね、違うんだよローくん
別にローくんの服を着るのが嫌だとかそんなことじゃあないんだ

むしろローくんの匂いとか、身体の大きさとか色々実感できて嫌どころかむしろご褒美みたいだ」




そう言ってソラはにこりと綺麗に笑う





ローの不機嫌の理由が分からず、
とりあえずパーカーをいらないと断ったときにさらに不機嫌度が増したと察したソラは
又もや見当違いなフォローとも言えないものを即座にかました




しかしそれは変態チックで
かなり気持ちの悪いもので、
もちろんのこと言った本人は気づいていない
何故ならただ本心を言っただけだからだ。





案の定そのセリフを聞いたローの顔は
何を言ってるんだ、とでも言うように先程よりも更に酷く顰められた
そんな顔を見てあれ?、とソラは更に首をひねった






彼と彼女はいつもどこか噛み合わない
それは彼の言葉足らずのせいか、
それとも彼女の考えがズレているせいか
















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