しあわせ色

□春島・ノーザリー島
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波は非常に穏やかで
朗らかな春の日差しが心地よい
そんな日だった
とある一艦の潜水艦がある島へ上陸した





ここは春島・ノーザリー島
環境に恵まれた故商業の栄える活気溢れた島である
島からは度々人々の明るい声が聞こえてくるところを見るとどうやら随分と景気の良い島のようだ




特徴的な黄色の潜水艦の甲板では白いツナギを着た恰幅の良い男性達がゾロゾロと船から降りようと準備を始めている






その中の1人、声を上げたものがいた






「キャプテン、準備できました
俺達は食料と物資を調達に
今回の船番はシャチに任せます」





”PENGIN”とかかれてあるフライトキャップを深く被った男がそう声をあげた
そのキャップに書かれてあるその文字こそ
この男の名前であるからして何とも個性の強いものだ





そのペンギンはキャプテンと声を掛けた男の方へと顔を向ける
そこには気怠げに長い足を持て余して椅子に
腰かける1人の男がいた






「あぁ、俺もあとで降りる
…面倒ごとはおこすなよ」




そう言うとその男は
船を降りようと梯子を下ろす白いツナギ達を
チラリと一度見たと思えばまた目線を外し
頬杖をついて呑気に島の様子を眺めていた




そんな彼の姿をみてペンギンはため息をつく


 
まるでいつも厄介を引き連れているのが俺達のような言い方にだ
俺等よりも面倒ごとを起こすのはアンタの方だろ



しかしながらそんなことを言える訳もなく





「分かってますよ
ログは2日程でたまるそうなのでその間キャプテンも大人しくお願いしますね」




腹に抱えていることは決して口にはせず
にこりと、気持ち良いほどの笑顔を貼り付けてペンギンはそう言うとフライトキャップの耳をヒラリと翻して梯子へと向かっていった





潜水艦からクルー達がバラバラと島へ向かっていく
その足取りは軽くその屈強な見た目には似合わずともスキップなんてしてしまいそうな勢いだ
それ程までに久しぶりの陸が嬉しいのだろう
まぁずっと海の上だったのだから無理もない






その浮かれた様子を見ながら軽く息を吐き
キャプテンと呼ばれていた男
基、トラファルガー・ローも潜水艦から島へと上陸したのであった







晴れ晴れといた良い日だった
春めいた柔らかな日差しの束が彼の黒い髪を透いて照らした








「この島に本屋はあるか
もし無ければ医書のようなものを取り扱っているような場所があると嬉しいんだが」




と、ローは漁師に問う




この島は商業の島
流通の多いこの島であれば珍しい医書や
もしや医学も発展しているかもしれない
そんな気を有したローは周りをキョロキョロと見渡していると港にいる漁師に声をかけられたのだ




漁師はローに見て観光客か何かと勘違いしたのか元々豪快な性格なのか
どちからは分からないけれど遠慮なく話しかけてきた






「医書をお探しとはにいちゃん勤勉だね
本屋ならこの島には一軒しかないよ
ここをまっすぐ行ったところだ
歩いて10分ほどで着くだろうよ」




迷子にならないようにな、なんて
ガハガハと豪快な笑いが聞こえた
そんな漁師の戯言にあぁと空返事をして
まっすぐ、そう言って漁師が指を指す方向へとつられるように視線を移す




今はお昼時で夕方まであともう少しの時間でそろそろ太陽が沈む頃だ




この島には街頭がチラホラあるものの
漁師が指した方向には店や家と違って
街頭がある様子も無く他の道とは違い整備が行き届いていないようで随分と荒れ、細く歩きにくそうだ




正直言うとめんどくさい。
けれどまぁ、10分なんてすぐだろう
眉間に少しのシワを寄せてそんなことを考えてまた漁師へと視線を戻す




ぶっきらぼうに助かる、と言葉を残し
視線の方向へとその無駄に長い脚を運ぼうしたときだった





「ミー」





足元から小さく聞こえた声に
ローはその足の動きをピタリと止めた
何事かと目線を下へとズラせばローの足元に
1匹の白い猫がちょこんと座っているではないか




野良猫にしては手入れの行き届いている
その白い毛並みは太陽の日差しに照らされて
つやつやと輝いている


ジッとローを見上げるそのつぶらな瞳は
思わず見惚れる程のとても澄んだ
綺麗な蒼い瞳だった






「ソラ、
こんな港まで降りてきたのか」





珍しいなぁ、そうにこにこ笑いながら漁師が猫に向かって話しかける
そんな漁師の声にローはハッと意識を取り戻した



どうやら白猫の瞳に見惚れていたらしい
情けないものだと思わず口の端が引き攣る
その猫の名前はソラというらしい
随分と綺麗な猫だ




そんな彼等の様子をジッと見ていたローに気づいた漁師があぁ。と声を出して猫を指差す






「この子な、本屋の店主のペットなんだ
この子に店まで案内してもらいなよ」





その言葉にローはパチリと一つ瞳を瞬かせる



通りで、綺麗なはずだ。
飼い猫だったか
野良でこの美しさであれば目を見張るな
しかし猫を愛でる趣味があるとは、
その本屋の店主とは話が合いそうな気がする





こんなことを頭の隅で考えながら
あぁ、そうする。なんて適当に返事を返した




漁師が猫に触ろうとその美しい毛並みに
無骨な手を伸ばす
しかしながら触るなとでも言うように
その手をするりと避けた猫は不機嫌そうに一度鳴いた




しかし猫のそんな態度を気にした様子も無く
手厳しいねぇ、なんて
手をぷらぷら左右に揺らしながら
ガハガハと大口を開けて豪快に笑い
漁師は明日の準備に戻ると一言伝え
その焼けた背中をローに向けて港へと戻っていった





なんともマイペースな奴だった
もう遠くなってしまったその厚い背を見ながらローはため息ををつく






気を取り直して目的の本屋に行こうと
身体の方向を変えれば






「ミー」






また鳴き声が聞こえた




その鳴き声の方向へと視線を移すと
まだ居たのか
先程の白猫がローの側に座っている




先程の漁師へ向けた不機嫌を含んだような声ではなく、
まるでローに声を掛けたようなそんな様子で





まさか本当にこの猫が店まで案内してくれるのだろうか
動物が道案内など俄に信じがたい




いや、うちの船にはベポというデカい白熊がいるがあいつは言葉を話す為カウント対象ではない





眉を寄せて少しばかり考える
しかし考えてみてもラチがあかないので
結局は行動あるのみなのだ






「…お前が店に案内してくれるのか」





おずおずと声を出す
声を出してみたは良いものの
まさかな、なんてそんなことを考えていた




しかしながら。






「ミー」






また一度声を出すと
その猫はつい、と頭をローが行きたい場所へと降りそのままそのしなやかな足で一歩を踏み出した





まるでこちらの言葉が分かっているような
その態度にローは一瞬狼狽えたる



けれど歩みを止めることの無い猫が
どんどんと奥に進んでいってしまうので
ごちゃごちゃと考えるのは辞めだ、と
なんと無しについていくことにしたのだ





頭をぶっきらぼうにガシガシとかく
そして一度大きなため息





自分はやはり可愛らしい動物に弱いのだと
眉間にシワを盛大に寄せ
改めて再確認するローであった














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