しあわせ色

□改めて認識
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「ローくん、ローくん起きて
もうお昼だよ、ご飯食べに行こう」





ゆさゆさと優しく揺さぶられる身体
ふわりと石鹸の香りがした
仕方なく重い目蓋をゆっくりと持ち上げてみれば目の前にはソラの顔






「……近い」





こともあろうことかローはベットの上でソラに抱きしめられていた
ご丁寧に腕枕というものをされて



ローは狼狽えた
何故なら男女がベットの上で抱き合っているからである
そんな状況であるがソラは全く気にしていない様子で、






「あ、ごめんね
擦り寄ってくるローくんが可愛くて」





ヘラリ、と笑うと
ベットから身体を起こすソラ
慣れた手つきでローの頭を撫で始める





「は?擦り寄った?」




嘘だろう?
そんな顔をしてローは目を見開く
頭を撫でられているのも相まって、ローは盛大に顔をしかめてソラに聞く




「うん、ローくんに近寄りたくて抱きしめたんだよね
そしたらローくんが擦り寄ってくれて…
あぁ、可愛かったなぁ…」





うっとりと
それはそれは嬉しそうに目をつぶってソラは答える




それをみて、ベットから起き上がりながらローはげんなりとした
突っ込みたいところが色々あるのだが
寝起きで頭が回らない、




今も自身の頭を撫でているそのソラの手をペチリと弾いて
「変態かよ…」
ぼそりと呟く




その吐き捨てられた言葉と手を弾かれたことにソラはうっ、と悲しそうなくぐもった声を出した




「マッ、マスターの近くにいたいと思うのは当然のことなんだ!
変態なんて言ってもらっては困るよ!
これは私にとっては当たり前のことなんだ!」




そんなこと言わないでおくれ!
なんて、大きな声を出すものだから
ローはわざとらしく片耳に手を当てて耳を塞ぐ仕草をしてみせた




きゃんきゃん鳴いているソラを置いて1人ベットから立ち上がる
時計を見ると13時を指していた





こんなに長く眠れたのはを久しぶりだな、
くあり、とあくびをしながら伸びをした





ショートスリーパーであるローは普段2.3時間ほどしか睡眠をとらず長時間寝るなんてことは滅多にない



その原因は本の読みすぎであったり、夢見の悪さであったり、色々あるのだが、







今日も胸糞悪い夢をみた
いつものように真っ白な街で
いつものように雪が降っていて
いつものように1人ぼっちで



ただいつもと1つ、違ったのが
声が聞こえた



泣かないで、と誰かから声を掛けられた
たったそれだけだ





それだけだったのだが、
妙に安心してしまったのを覚えている
そのおかげで今日はこんなにもぐっすり眠れたのだ






あれは誰だったのか
とても女性的で柔らかい口調だったのを覚えている
母様か、もしくはラミか
ふっ、と自嘲的にローは笑った









「あぁ、良かった
少し薄くなったんじゃあないかな、隈。」



鼓膜に響く声
何故かじんわりと胸があつくなった







声のする方向へ顔を向ければ
いつのまにかベットから出てきたのか
ソラがローを見上げていた
澄んだ青色の瞳はそのまま透けてしまいそうだ






ソラは精一杯手を伸ばしてローの目元を指の腹で優しく撫でた
ソラの瞳が愛おしそうにゆらりと揺れた






ローは驚く
ソラの声は夢に出てきたあの声ととてもそっくりではないか





「ーーーーお前…いや、
店主、礼を言っておくありがとう
おかげでよく眠れた」




何か言いたげに口篭って
言うべきではないか、とソラへ礼を言った





その礼は一緒にソラが寝てくれたことにか、それとも夢の中でのことか、


ローの柔らかい表情に
ソラは少しだけ目を見開いた







そして緩く微笑む
やはり私のマスターは素敵だ





「いいんだよ、いつでも頼っておくれ




でも、お礼を言うのであればきちんと私の名前を呼んでくれてもいいんじゃあないかな?」





んー?と首を傾げながらローを問い詰める
未だにローがソラのことを店主と呼ぶことを気にしているようだ




ローの顔から先程の柔らかい表情が消え
いつもの仏頂面に戻る





「なんと呼ぼうが俺の勝手だろう」

「マスターには名前を呼んでもらいたいだ」

「最初から店主と呼んできたんだ
今更変えるのは慣れない」

「でも私が寝る前にちゃんと名前を呼んでくれたし、ローくんが擦り寄ってきた時にも呼んでくれた」

「……腹減ったから飯行くぞ」




返す言葉がなくなったのか気まずそうに
そう言ってそそくさと船長室の扉を開けて出て行くロー




あぁ!逃げられた!
そう言ってソラは急いでローの後を追う






ローの背中をパタパタと追いかけながら
どうすればマスターから名前を呼んでくれるのだろう、とソラは首を傾げたのであった









↓拍手お礼小説あり


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