愛のはなし 拓斗×咲哉
□お伽噺のはじまりとおわり
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「咲哉くんっ!咲哉くんっ!」
あんなに出なかった声が出るようになった。
医師からは心因性の失声症と診断された。
何かの拍子に出るようになるからと言われていたが、まさかこんな形で声を取り戻すようになるとは思いもしなかった。
泣いても叫んでも、彼の名を何度呼んでも、もう振り返ることはない。
あの綺麗な薄い光彩の瞳で私を見ることはもうないのだ。
あの女の子のような艶々の唇で私を友と呼ぶことはもうないのだ。
自分が突き放したのだ。
友であった彼の言葉を信じずに。
助けようと必死に手を伸ばしてくれていたのに。
先程の彼の笑顔を思い出す。
まるでそこに透明な壁が存在するかのように、立ち止まり顎まで流れ落ちる涙がパタパタとコートに染みを作っていった。
私の声が出なくなったことを先生から聞いて心配してくれたのだ。
全てが終わったから安心してと震えながら言った。
友達で居てくれてありがとうと、まるでお別れのように。
二度と私の前に姿を表さないかのように。
『俺なんか』と彼の自分に対する表現がリフレインする。
彼の過去がどんなものだか想像もできない。
でも時折見せる不安な表情が彼の自信のなさを物語っていた。
あんな言葉を言わせてしまったのは私だ。
謝るのは私の方なのに。
「咲哉くんっっ!」