愛のはなし 拓斗×咲哉

□孤独のかけら
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休日、俺は由美に会いに出掛けた。
連絡も取れず家も分からず無謀だとは思う。
けれど、静江の話を聞いてどうせ独りでいるなら後悔することなく孤独を受け入れようと思ったのだ。

拓斗と幼馴染みだという情報を頼りに拓斗の家の近くまで行く。
鉢合わせしたりしないように慎重に。
小さな公園の脇に周辺地図が貼ってある。
北澤という名字の家が数件あった。


「あれ?お兄ちゃん?」
小さな男の子の声に振り向くと、拓斗の弟の彰がサッカーボールを片手に一人でやってくる。
拓斗によく似た容貌に泣きそうになるが堪えて挨拶をした。
「どうしたの?兄ちゃん貸してあげようか?」
目の高さにしゃがむとそんな風に言われ、首を横に振った。
「ありがとう、彰くん。もうお兄ちゃんはヒーローだから甘えなくても良くなったんだ」
「ヒーローに?」
「そう。彰くんがお兄さんを貸してくれたお陰で強くなれたんだ」
「そっかぁ」
エヘンと満更でもなさそうに腰に手を当てる。
「彰くんは知ってるかな?お兄さんの幼馴染みの女の人で北澤由美さんって」
「あー、由美姉?知ってるよ。兄ちゃんの恋人だからな」

兄ちゃんの恋人という言葉に体が固まったが、笑顔を張り付けたまま尋ねる。

「そう、その由美さんに学校からの届け物を渡さないといけなくて、おうち知ってる?」
「プリントってやつか。家、知ってるよ」
「この地図だとどこ?」
「んーと、ここだ。ここが俺んちでここが由美姉の家」
手を伸ばして指し示した場所は拓斗の家から角を曲がった三軒目だ。
真向かいの家じゃなかったことにホッとする。

「彰くん、ありがとう。これから遊びに行くの?気を付けてね」
「うん。またね」
彰がニカッと笑って駆け出していく。
見送っている俺を振り向いて大きな声で言った。


「ヒーローも甘えていいと思うよ!」


バイバイと腕を大きく振って走っていった。


「ほんと、イケメン」
滲んだ涙を拭い、教えてもらった由美の家へ足を進めた。
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