愛のはなし 拓斗×咲哉

□幸せに慣れるためには
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子供のように感動する俺を始終楽しそうに眺めていた拓斗が最後のおすすめスポットに連れていった。

「カワウソ?」
「そう、カワウソ。餌があげれるんだぞ」

ガラス越しには何頭かカワウソが昼寝をしたり水の中を泳いだり、上からぶら下がるロープを噛って思い思いに過ごしている。
円らな瞳に可愛いフォルム。
一角に餌やりでカワウソと触れあおうとパウチが貼ってある。
人が数組並んでいて、飼育員のお姉さんから餌を貰って、ガラスに空いた穴からカワウソが小さな手を出して、人の手に乗った餌を取って食べている様子が見えた。

「あげる?」
「あげたい!」
「じゃぁ、並ぼ」
家族連れの後ろに並びワクワクしながら、他のカワウソの行動を見たり、餌を貰うカワウソを見たりして待つ。

ついに自分の順番になり飼育員から餌のカリカリを貰い掌に乗せる。
ガラスの穴の向こうでカワウソが俺の様子を伺っている。
取りやすいように穴の近くに手を置いてやると小さな手がニョつと伸ばされ掌を探る。
掌をくすぐられ引っ込めたいのを抑えてカワウソがカリカリを掴むのを見守った。
俺の掌から受け取ったカリカリを大事に両手で持ってモクモクと口元に手をやっている。

「やばい…」

あまりの可愛さにカワウソの水槽からなかなか離れられない俺を拓斗が優しく呼ぶ。

「咲哉」

吸い寄せられるように拓斗の手を繋ぐ。
出口付近にあったショップに連れていかれグッズを冷やかして回る。
カワウソの掌サイズのぬいぐるみはクオリティーが高く、小さいのに肉球のプニプニ感まで再現されている。
掌に乗るカワウソの真ん丸の黒い瞳が可愛いでしょ、と俺に訴えていて商品棚に返すのにも時間がかかってしまう有り様だった。


隣接する隣のカフェでサンドイッチセットのテイクアウトを頼んで芝生スペースの席に座る。

「咲哉、頂きます」
次は俺が支払うと言って会計をした俺に行儀よく手を合わせてボリューミーなサンドイッチにかぶりつく。

「水族館って一日中居れるね」
「咲哉が楽しんでくれて良かったよ」
「俺ばっかり楽しんで拓斗は楽しかった?」
「楽しかったよ。飽きなかった」
そう優しく微笑まれる。


唐突に胸が締め付けられるように苦しくなってサンドイッチを食べる手が止まる。
「なに?どうした?」
心配そうに見つめる瞳にううんと首を振る。
「なんか俺、今すごい幸せで…」
「咲哉、なんだよそれ」
照れ臭くなったのか拓斗は残りのサンドイッチを大きな口でかぶりついた。

「幸せで…それで…いいのかなって…


鼻の奥が痛くなって慌ててドリンクに口を付けた。
拓斗の手が止まり俺の次の言葉をまっている。

「俺、こういうの初めてで、慣れなくて…嬉しくて堪らなくて…なんか、やば、泣きそう…」
へへ、と笑ったら後頭部に手を添えられ唇を奪われた。
見開いた視界の端には家族連れや他の恋人も居て。
ノンケのくせに信じられない、と目を閉じたら涙が零れた。


「幸せに慣れないって言うなら俺が慣れるまで沢山の幸せをやるよ」


そんなことを言ってのけるイケメン拓斗はもう一度キスをして、俺の掌に小さな紙袋を乗せた。
水族館のロゴが入った紙袋を開けると、水族館のショップで見ていた掌サイズのカワウソのぬいぐるみだ。

「ありがとう。大事にする」
ギュッと掌に包んでポロポロと泣く俺を何だか幸せそうに見つめる拓斗が印象的だった。






「なんかいつの間にか咲哉呼びになってるんですけど?」

久しぶりに由美を含めた3人で会ったときに、名前で呼んだ拓斗に驚き嬉しがりそして悔しがって見せた由美に、宝物のような思い出を話すのは、もう少し後にすることにしよう。




end
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