愛のはなし 拓斗×咲哉

□幸せに慣れるためには
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クローゼットの中から選んだ服は白のワイドTシャツに黒スキニー、オフホワイトのサマーカーディガン。
鏡に全身を映して頷いた。
至って普通だが何せ男同士で歩くのに片方が気合いをいれまくっても変だろう。
色素の薄い茶色の髪を耳にかけ、机の上の黒のリストバンドを左手首にはめてその上に時計をして斜め掛けのバッグを持って家を出た。

拓斗と約束を決めた昨夜は嬉しくてドキドキがおさまらなくて結局明け方まで寝付けなかった。
好きな人が出来るのも、デートするのも初めてでソワソワして仕方なかった。

待ち合わせは2人の家の真ん中くらいにある駅前で、落ち着かなくて早く出てしまった俺は駅前のベンチでソワソワしながらスマホを弄っていた。
気配がして拓斗かと思って立ち上がると、人違いで顔に血を昇らせながらゆっくりまたベンチに座る。

「世の中の人は、これによく耐えてるなー」
ハァッと一回目のデートでこんなだもん、と空を仰ぐ。
夏空の蒼さに目が奪われる。
初デートが天気で良かったとにやける。

「君、これから一緒にどこか行かない?」
頭を上に向けたまま固まる。
真上からいかにもガラの悪そうなお兄さんが2人ニヤニヤしながら見下ろしている。
『お前はホイホイみたいなやつだな』と八束先生が皮肉を込めて言っていたが、自分でもそう思えてきた。
「あの…すみません、俺、男なんですけど…」
何で男であることを謝らないといけないのか分からないが、取り敢えず勘違いをさせたのなら謝る。
「またまたー、こんな可愛い男の子がいるわけないっしょ」
髪の毛を摘ままれて嫌悪感が沸く。
どうやってこの輩を追い払えるんだろうかと頭の中で色々考えて口を出したのが結局、彼氏待ってるんで!って言葉だった。
それは真実だが、男だと言っておきながら彼氏を待ってるという文章は一般的ではないのでケラケラと笑われた。
「ほら、やっぱり女の子じゃん。嘘ついたらダメでしょー?彼氏なんかより俺たちの方がずっと気持ちよくさせてあげるからさ」
「気持ちよくって、お前あからさまじゃん」
男たちに肩を掴まれて、何かいい方法を考えてると俺のヒーローが漫画みたいに現れた。

「何、人のもんに触ってんだ」
「拓斗っ!」
地を揺らすような低音に後退りをした2人の魔の手から逃れ拓斗に駆け寄る。
「っ、彼女が暇そうにしてたから相手してやっただけだよ」
喧嘩になるんじゃないかとヒヤヒヤしてたけど、どうにか男たちが去っていってくれてホッとする。
「お前は…」
すがる拓斗の体から怒りがシュルシュルと抜けていくのが分かった。
「…待たせたな」
照れ臭そうに言った拓斗を見ると、カーキ色のサマーニットから白Tシャツを覗かせて黒のワイドパンツといった格好で見慣れないお洒落な拓斗に頬が熱くなる。
「ううん!今、来たとこ!」
「…嘘言え…」
ガシガシと困ったように頭をかいた。
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