愛のはなし 拓斗×咲哉

□好きっていうのはね
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「咲哉くん…それで、その後の進展は何かありまして?」

拓斗と由美との3人で行きつけのマッ○に学校帰りに立ち寄るのが俺たちの日課だ。
バイトもしてない俺達にはコスパ最強のお店だ。

拓斗がメニュー追加に行っている隙を狙って由美がこそこそと小声で話しかける。

夏になり由美は半袖の解禁からブラをちらりと覗かせながら前屈みになる。
俺には効力はないが一応仮にも男だ。
「由美、ブラ見えてるよ」
俺も小声で通告すると、由美はちらりと自分の胸元を見て、赤くなるわけでもなく襟を正し、あらそう、と言った。

「で?」
「…はあ…何にも。全く。…手ぇすら繋いでないよ」
「嘘でしょ…」
由美はこの世の終わりかとでも言うように目を見開いてレジカウンターにいる拓斗の背中をじとりと見つめた。

「確かに奥手ではあるけど…咲哉くんはどうなの?…それで満足してるの?」
確実に由美は俺と女子トークしたいらしい。
「満足…うん。まあ、今のところは、こんな感じを楽しんでいる自分がいる」
俺も拓斗の背中に視線を送った。ポテトを頼むだけだったのになかなか帰ってこないと思ったらレジの女の子と仲良く話をしている。
少し上がり気味のキツイ目元なのに話してみれば情が熱いのがよく分かるような誠実な話し方をする。
背も高く筋肉もいい感じについて小麦色の肌が鍛えた健康的な男性的な魅力を引き上げている。
顔はイケメンだと思う。
体の相性は大事だったが、顔の好みは無頓着だった俺でも拓斗を見たときカッコいいと思ってしまったのだから、大抵の女の子もそう思ってしまうのは仕方ない。

「嫉妬しないの?」
俺の表情があまりに穏やかだったからか由美があからさまに訝しんだ。

「嫉妬ね…俺なんかがしちゃっていいのかな…?相手は女の子だし…」
まずフィールドが違うじゃん、と笑ったら由美が珍しく俺に怒った。

「なんで?!女とか男とか関係ないじゃん!」
「え…」
「おい、由美。何、怒ってんだ?」
ようやく帰ってきた拓斗が俺の隣に座る。
「拓斗、遅いじゃん!なに話してたのよ!あの子と!」
ぶぅっと頬を膨らます由美に、はぁ?と拓斗が顔を歪める。
俺、お前の代わりに当たられてるんですけど?と俺を見る。
「あの人、うちの高校の2年生らしいよ。夏休みバイトしない?って誘われた」
「「はぁ?」」
由美と俺の声が揃う。
「なんで?意味分かんない。うちら3人で来て、女子私1人で男子2人いて、どっちかが彼氏って思うじゃない。普通!そしたら咲哉くんは明らかに可愛すぎでしょ?私には釣り合わないじゃない。なら拓斗の彼女かなー?って想像するでしょ?その上で拓斗に声かけるってどういうつもりよ!」
捲し立てる由美に引き気味の俺と拓斗は、まあ、まあ、と手をあげる。
「彼女じゃないって言ったからなぁ」
「はぁ?聞かれてるじゃん!」
「なんでそもそも由美がキレてんだよ」
拓斗はポテトを齧りながら由美にも食う?と差し出すと3本一気に取っていく。
「咲哉くんの代わりにキレてんのよ、私は!」
「なんで代わりにキレるんだよ。お前、キレてる?」
拓斗はポテトを俺にも向ける。
マイクか?これは。
「キレてないよ」
俺も一本頂く。
「だって、拓斗はあの人より俺のこと好きだろ?」
「ああ」
何、バカなこと言ってんだと。
「たがらキレる必要ない」

ね?と由美を見るとフルフルと小刻みに体を震わせたかと思うと顔を赤くして俺と拓斗の顔を交互に見る。

「な、な、な、何、今の?!録音しとけば良かった」
そう言って目をうるうるさせながらスマホをいじった。
どうやら由美のツボだったらしい。


「夏休み来るし俺もバイトのこと考えてたから、丁度いいから決めてきた」

「「はぁ?」」

さすがにこれは俺もはぁ?である。
付き合いはじめて初めての夏休み。
何の進展もない今だけにこの夏休みに距離が一気に縮まるんだろうなと楽しみにしてたのに。
デートなんて今までしたこともなくて、どこ行こうとか雑誌見ながら毎夜妄想に耽ていたのに。

「俺もバイトしようかな…」

そしたらずっと一緒に居られるし、なんて思ったら拓斗に速攻やめとけ、と言われる。

「シフトが一緒に組めるわけでもないし、お前が隣にいたら気が気じゃない。俺がシフトの時は由美と2人で来たらいいだろ?」
「来るわよ!来るに決まってるじゃない」
良い案だと思ったのにバッサリ切られた俺を他所に由美が鼻息荒くそう言った。
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