愛のはなし 拓斗×咲哉
□愛の代わりになるものは
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フラッシュバックと同じように記憶が巻き戻され、冷や汗が額に滲み呼吸が浅くなる。
ショックを受けて青ざめた拓斗の顔。
「っおい!高梨っ」
目を閉じて深く呼吸をしなきゃと思う。
吐き出す酸素の量が少なくて、浅い呼吸のために吸い込む量が多くなるから過呼吸になるんだ、と医者が言っていた。
だから、こんな風になったらまずは深く吐いてゆっくり深呼吸をしなさいって。
でも苦しくて涙が滲む。
何度も俺の名を呼んでいた声が止んで、唇を塞がれた。
はっと目を開けると拓斗に口付けられている。
拓斗から舌を絡めてきて恐る恐る応える。
いつの間にか過呼吸はおさまり、今度は酸欠になりそうな程長いキスをされた。
「っ…んぅ…は、ぁ」
舌が痺れるほど濃厚で立っていたら膝がガクガクになっていたと思う。
頬を優しくなぞられ視線を逸らさない
拓斗を言葉なく見上げる。
「綺麗だ」
ポツリと言って拓斗の胸に抱き寄せられた。
どういう意味?と聞きたかったけど、すっぽりと抱き締められてることがすごく守られてるみたいで、体を離すことが嫌だった。
しばらくじっと抱き締められたままだったけど、平気か?と短く問われゆっくりと立ち上がって体の痛みも酷くないと見せた。
「…キス、したな」
ちらりと拓斗を見上げると顔を背けた。
「…したな」
耳が微かに赤い。
「何とも思わない相手にキスするの?」
「…しないな」
降参でもしたように溜め息をついて俺を見た。
「困ったことに、どうやら好きらしい」
抱きついてキスしたいくらいだったけど、通りには人が多く行き交っていて、俺は平気だけど拓斗にはハードルが高すぎるだろうと我慢して、隣を歩く逞しい体に横から体当たりをした。
「アオハルしような」
こんな自分を大事だって言ってくれる人に出会えるなんて奇跡だ。
「いつから?」
「…たぶん初めて声をかけたときから」
拓斗に声をかけられた日のことを思い出す。
どこかで噂を聞いて声をかけてきた。
単に抱きたいだけの男かと思ってたけど、単純に噂の真意を確かめに来ただけだったらしい。
「あ!由美は」
由美は別れるかも、と言っていたが。
「由美とは別れようと思ってた。由美は家族のような存在だから」
なんだかそれも羨ましい。
「きちんと由美と別れてから俺と付き合ってよ。俺も由美とはこれからも仲良くしたいし」
「そうだな」
拓斗は優しく笑った。
end