愛のはなし 拓斗×咲哉

□愛の代わりになるものは
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「高梨咲哉ってお前か?誰にでも股開くってやつ」
学校の廊下ですれ違い様に頭ひとつ高い男に声をかけられた。
「は?」
低音のいい声だと、言われた内容はどうあれ、瞬間そう思った。
男の名前は覚えていないが、顔は見たことがある。
目付きはやや獰猛で、端整な顔立ち。
肩幅が広く胸板の厚みも程よく、腕捲りされた制服から覗く腕や手のゴツゴツ感や、指の長さも申し分ない。
クラスの女がキャーキャー騒いでたのを思い出した。
なんと言ってたか。
「上田…いや、上野?」
はて、と首を捻ると目の前の男は「上原拓斗だ」と低く言った。
「あー、上原、そうだそうだ。で?」
俺が誰にでも股開くとかなんとか言ってたな。
「俺に興味あるの?」
サラサラと流れる長めの髪を片方の耳にかけ、上目遣いで上原を挑発する。
まあ、大概の男は顔を染めて生唾を飲み込む。
けど、この男はちょっと違ってて。

耳の横で止めていた俺の左手首を凄い力で掴むと、体を密着させ逃がさないとでも言うように体全体を使って壁に押し付けられた。
最上級の壁ドン。

耳を舐められるんじゃないかと思うくらい近くから、低く囁く。

「噂通りか確めたくてね」

ゾワゾワと尾てい骨からかけ上る鳥肌に息を詰めて耐え、お返しに顎をあげ上原の唇ギリギリで囁く。

「誰にでものわけないだろ。選ぶに決まってる」

上原が目を見開いて手首にかかる力が抜けたところを見計らって、スルリと逃げた。


俺も振り返りはしないし、上原も追っては来なかった。
けれど、俺は確信している。
上原はきっと俺を抱きたくてたまらなくなったと。

そして、俺はにやける顔を抑えるのに歯をくいしばる。



上原拓斗。
あの完璧な肉体にメチャクチャにされたい。
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