愛のはなし 拓斗×咲哉

□幸せに慣れるためには
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電車の中は休日のせいかシートには座れそうもなく出口付近で拓斗は俺を庇うように立つ。
全てが新鮮で嬉しくて20分の道程もあっという間だった。
目的の水族館は最寄りの駅から徒歩で約10分。
来たことの無い道にキョロキョロしながら歩く俺をゆっくりした速度で歩いてくれる。

「うわっ、海だ!」
視界が開けたら目の前が港になっていて、その目の前に大きな水族館が建っている。
広い芝生のスペースもあったりカフェも隣接していて既に周りには恋人や家族連れが見られた。

海面のキラキラした煌めきに目を奪われつつ、水族館へ向かうと海の生き物のぬいぐるみに囲まれたチケットカウンターがあった。
「高校生2枚」
拓斗がスマートに支払いを済ませたのを見て慌てて財布を取り出す。

「ここはいいよ」と嬉しそうに言う拓斗にお礼を言って、お昼は自分が出そうと決める。

「ほら、高梨」
「っわ…」

ゲートを抜けた瞬間、世界は一転した。
筒状の透明なガラスの柱が所々に置かれLEDの灯りのみがこの暗闇の中の唯一の光。
けれど、そのカラフルな光はガラスの中の水面に反射し、ゆったりと浮かんでは沈むクラゲを染めた。
幻想的な景色に声を発することも出来ず立ち竦む俺に拓斗が手を差しのべる。
その手を握り体を寄せた。
揺らめく光を言葉を交わすこともなくじっと見つめる。
たぶん拓斗の手が導かなければ、ずっと一ヶ所に身動きもせず立ち尽くしてただろう。
ある一定の時間を待つように手を引かれ次の水槽へ導かれる。
クラゲの柱のゾーンを抜けてようやく一息ついた俺を拓斗は嬉しそうに見つめる。
「すごい綺麗…俺、あんな綺麗なのはじめて…」
「次はもっとすごいよ」
強く手を握りしめるられて、次のゾーンに入った。
入った瞬間に神秘的な音楽に体を包まれ、円形の部屋の壁に映し出された宇宙のプロジェクトマッピングはゆったりと映像が流れ、太陽を中心とした惑星が動いていく。
少し頭上には流星群がゆらゆらと煌めいて燦然と輝いていた。
その流星群が小さな透明なクラゲだと拓斗に教えてもらい、その演出に感動する。
壁に2,3人で座れるソファがあって拓斗に促され腰かける。
「気に入った?」
耳元で囁かれ体半分が性感帯みたいに反応した。
視線を合わせて頷くと嬉しそうに笑う。
「高梨は水族館あまり来たこと無いの?」
「うん、はじめて。拓斗は?」
「俺は家族とか。近いからここばかりだけど」
「こんなとこがあるの知らなかったな」
自分は15にもなるのに何も知らないんだなと少しショックを受けた。
でも自分のはじめての世界が拓斗と一緒だなんて幸せだと思う。

「拓斗。すごく嬉しい」
「高梨…」
「あ、」
「え?」
こんなに素敵な空間で自分の野望を思い出してしまった。
手を繋ぐという一つ目の目標は叶い、その先へと進むためのもう一つの目標。
「名前、咲哉って呼んでほしい…高梨じゃなくて…」
繋いだ手を見る。
これ以上わがまま言ったらダメかな、とうつむき加減になった俺の耳元で名前を呼ばれた。
「咲哉」
すごく、照れ臭そうだけど嬉しそうに笑って。
俺も泣きそうになるほど嬉しくて抱き締めたくなる代わりに繋いだ手を頬に当てた。


「っ!咲哉、マジでヤバイから次に進も」
慌てたように手を引っ張り立ち上がらせると次のゾーンへ進んだ。
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