dream

□テト
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これは二人が知り合ってから、そう時間が経っていない頃の話。
未だ冬の名残を感じさせる冷たい風が吹く中で、二人は缶ビールを片手に遊び場で呑んだくれていた。


「ほんとミカちゃんとお友達になれてよかった〜。こうやって一緒にお酒飲める人がいるだけで全然違うよね!」
ぐいーっと勢いをつけて飲み干された缶を地面に置き、テトは椅子代わりにしていたブランコを緩やかに漕ぎ始める
その姿をミカウは遊具前の低い柵に腰掛けながら見つめた。
「…ほんと、jojaにいた頃はこんなことしてる暇もなかったし、気を許せる友達もそんないなかったしさ…」
『!』
ギィギィと苦しそうに錆びれた音をあげるブランコを揺らしながらぽつりぽつりと吐き出された彼女の本音に静かに耳を傾ける。
「…ミカちゃんはここに来る前は何をやってたの?私はjojaの本社にいたんだけどさ」
『…私は花屋で働いてたよ』
「へぇ〜、なんか似合うなぁ。でも…なんで辞めちゃったの?」
『…父も母も亡くなってしまってね…その直前に牧場の権利書を貰ったから、やってみようかなって…』
「そっかぁ、お父さんお母さんが………ミカちゃんも、大変だったんだね………」
テトが新しい缶ビールを取り出しプルタブを捻ると、小気味いい空気の漏出音を奏でた
しかし直ぐに戻ってきた静寂が二人を包んでいく。
「……ミカちゃんになら話してもいいかな……」
『…なに…?』
囁かれた言葉にミカウか首を傾げて尋ねれば、テトはへらりと笑って彼女を見た
「いやぁ〜…私ってバカだからさ〜……昔、不倫してたんだよね、しかもそのせいで人生めちゃくちゃにしちゃった感じ?あはは…もうほんと、最低…。こんな私がハーヴィー先生と真面目に恋しようなんてさ、おこがましいよね…」
次第に色を失っていく笑顔を隠すようにゆっくりと伏せられていった愛らしい顔。
子供のような幼さを残したテトが過去に犯した過ちを知りミカウは目を丸くさせ、口に運ぶつもりだった缶ビールを手に持ったまま彼女にかける言葉を探す。
その間にもテトは弱々しい声で話を続けた
「本当に好きだったんだけどね……だから、赤ちゃんだって産もうと思った。奥さんとは別れてくれるって言葉を信じてたし。…けど、色々ダメだったんだぁ。…ほんとバカだよね。時々これを思い出して、死にたくなるくらい苦しくなって、でも過去は変えられないし消せないから嫌になっちゃうよ」
『…テトちゃん…』
苦しそうに、悲しそうに、本音と真実を吐き出していくテトの名前を呼ぶと、彼女は涙を溜めた瞳でミカウを見上げた
「…軽蔑するよね、こんなの。きっと先生も私の過去を知ったら嫌いになると思う」
『そんなことないよ。私も軽蔑なんかしない』
「…えへへ…ミカちゃんは優しいなぁ。………スタデューバレーに来たのも、過去を全て捨てるつもりだったからなんだけどね、なんでだろ…全然捨てられないし忘れられないや…」
苦し紛れに微笑んだテトの頬を伝う涙を見て、ミカウの身体は動き出していた。
手から離された缶ビールが僅かに残った液体を散らかしながら宙を舞い、地面にぶつかる。














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