dream

□シェーン16
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満月の夜
一人で酒場を楽しんできたシェーンがマーニー牧場へと帰る道の途中、思いがけない人物が目の前に立ち塞がった

「…!…あんたは…ミカが世話になってる魔術師か?」
「如何にも。…今宵は貴殿に会わせなければいけない者を連れてきた」
「会わせ…なに…?」
猜疑心を隠さないシェーンが片眉を上げて訝しげな表情を見せると、ラズモディアスは自身の後ろに隠れるようにして身を潜めていた子供を前に差し出した。
長い銀髪、青い瞳、人よりも尖った耳…シェーンの胸は嫌な予感で満たされる
「ま、さか…このチビっ子…」
「そう、半魔の娘だ」
「…っミカウ!」
全身からアルコールが抜けていきそうなほど妙な汗が噴き出した。
4.5歳ほどの少女の元へ駆け寄り小さな肩を掴むと、彼女は大きな青い瞳を震わせて大粒の涙を溜める
「み、ミカ、泣くな…!……まさか記憶も丸ごとないのか?」
「そのようだな。こうして外に連れ出すのに苦労した。エルフは警戒心が高いのだ」
「警戒心がどうとか言ってる場合じゃねえだろ!なんでミカがこんな目に遭ってんだよ!」
怒りのまま声を張り上げたことで小さなミカウの身体がビクンと大きく跳ねた
"ごめんな"と謝りながら見た彼女の瞳は普段の冷たさなど含んでおらず、ただひたすらに人間を恐れているようにしか見えない。
ラズモディアスは長い溜息を落としてから話し始めた
「半魔の娘は自分の魔力を制御することが出来んのだ…あれは事故だった。魔法の暴発と言えば貴殿にも理解出来よう」
「元に戻る方法は…!?あんた魔法が使えるんだろ!?ミカを戻せないのか!?」
返事を待つことなく次々と捲し立てるシェーンへ怒りもせず彼は続けた
「自分がかけた魔法を解く事と他人の魔法を解くのでは道理が違うのだ…複雑に絡んだ糸をほぐすところから始めなければ。…とにかく時間が必要だ」
「…そんな…」
「それまでこの者の世話を頼みたい。魔法の解除法がわかればすぐ迎えに行こう」
ただ簡潔に"どうしようも出来ない"とだけ宣告した彼はローブを翻し魔法によって姿を消してしまった。
残されたのは呆然と立ち尽くすシェーンと震える小さなミカウ
「どうしろってんだよ…」
愛しい人のピンチに何も出来ないことを憂いながら彼女の頭を撫でた。











時刻は0時を過ぎた頃
家の扉がノックされる音に気付いたハーヴィーとテトがベッドから起き上がった。
こんな時間に訪ねてくるような人に心当たりはないと思いながらも扉を開ければ、珍しく困り顔のシェーンが小さな子供を抱えているという異色の光景が飛び込んできた
「ちょっ…シェーン?どうしたの?てかその子…だれ?…誘拐?」
「っお前なぁ!今はふざけてる状況じゃねえんだ!」
信じられないものを見たような目で驚くテトをシェーンが叱り付けると、彼に抱かれている子供の身体が震える
その子に小さく謝罪を述べたあと、慈しむように髪を撫でた
「シェーン、一体誰なんだい?その子は…。なんでこんな時間に…」
「…実は…」
それからシェーンは浮かない顔のまま事の経緯を話した。
テトが子供になってしまった時のような解除法が確立してるものではないということも全て。










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