dream

□モーリス2
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jojaマート店内で新商品の品出しに勤しむシェーンの元に軽やかなブーツの音が近付く
聞き覚えのある足音のリズム感に振り返るとそこには彼が想像していた通りの人物、ミカウが買い物カゴを持ちこちらへ近付いてくるところだった。
彼女を見つけた瞬間、ぶすくれていた顔が途端に明るくなるのを彼自身感じていた
そして彼女もまた心無しか何かを楽しみにしているような、そんな雰囲気を纏わせていた
「ミカ!開店から来るなんて珍しいな、どうしたんだ?」
シェーンの問い掛けにミカウは目の前の冷凍食品コーナーを指差す
『それ…冷凍アップルパイ。今日から発売だって聞いてたから』
そう言って彼女は味も知り得ないそれをカゴの中へ山ほど移動させていった
陳列棚から消えていくアップルパイを眺めながらシェーンは苦笑いを浮かべる
「ほんと好きだな…家の冷蔵庫に入るのか?」
『入らなかったら食べちゃうから…』
「好きだねぇ……。あ、悪い!俺これから担当の仕事があるからレジ打ってやれねえんだ。気をつけて帰れよ」
一瞬時計へ視線送った後、慌ただしくその場から離れる彼へ手を振り、すっかり重たくなってしまったカゴを持ち上げレジへと向かった。



(………あの人…嫌だな…)
レジにて支払い作業を行ってる間、ミカウはびくびくと怯えるような視線をモーリスへと注いでいた。
以前から何度も夢に出てくる、むしろそれが夢か現実かわからない恐怖を与えながらミカウを凌辱していく男。
現金のやり取りを行ったらすぐにこの場から立ち去ろうと決めていたにも関わらず、無情にも彼女は捕獲されてしまう
「あぁ!ミカウさん!貴方もどうぞこちらへ!」
『ッ!!』
ビクッと大きく身体が跳ねた。
条件反射のように振り返れば、その男と目が合う。
唯一の救いは、そこにモーリスだけでなくパムがいたことだ
商品の入った袋を抱え恐る恐る彼の元へ近寄ると薄気味悪いほどの笑顔を向けられ、ミカウもぎこちなく微笑んだ
「ちょっとお嬢ちゃん!あんたこれ飲んだかい?美味いから飲まないと損だよ!」
いつになく熱の入ったパムから差し出されたのは小さな紙コップに入った液体
それはどうやらモーリスが買い物客に配っている試飲品のようだった
ほんのりアルコールの香りが漂うそれは先日ポストに投函されていたチラシの"jojaオリジナル ペールエール発売予定"という文字を思い出させる
「よかったらミカウさんも試飲なさってください。レビューは多ければ多いほど有難いのです」
「あんた、それにタダなんだよ?」
ぐいぐいと迫りパーソナルスペースを侵略してくる二人の押しに負け、ミカウはモーリスから差し出された紙コップを受け取りその中身を一気に飲み干した
ちょうど一口分のそれはあっという間に喉の奥へ流し込まれ、体内を軽く焼くような刺激を残して胃の中へと滑り込んでいった。
空になった紙コップを満足そうに受け取ったモーリスがミカウの顔を伺う
「どうでした?今回のは本社自信作の一品なんですが」
『お、いしかったです…』
「それは何より!」
うまく笑顔を作ることの出来ないミカウヘ違和感を抱くこともなくモーリスは笑顔で返す。
そして彼が再びパムと談笑を始めた隙を見計らい、ミカウはそっとその場を足早に離れた。
身体の内側に籠もる熱へ一抹の不安を抱いて…。








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