dream

□エリオット2
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コンコンとノックされた扉を開くと、以前忘れていってしまった釣り道具一式を持ちにこやかに微笑むエリオットが立っていた。

「やぁ。忘れ物を届けに来たんだ。ないと困るだろうと思ってね」
『…ありがとうございます…あの、よかったら…』
「!…いいのかい?」
ミカウは渡された道具を受け取り足元に立て掛ける。そして扉を大きく開いて彼を招き入れた。
エリオットの小屋からミカウの牧場まではそれなりに距離があって、わざわざやって来た瞬間に追い返すというのは流石に彼女の良心が痛むのだろう。
勿論、以前エリオットにされた行為は忘れていない故に警戒心を解いてはいないが。
シェーン以外の男性が入ることなど滅多にない家に彼が脚を踏み入れた瞬間、ダイヤが牙を剥き出しにして威嚇を始める。
「…あまり歓迎されてないようだね…。君のテリトリーを荒らしに来たわけじゃないから安心してくれ」
『…ダイヤ、お外へ出なさい』
寝起きで一段と機嫌が悪いのだろう、ミカウの指示など聞こえていないかのようにガルルルルと喉を鳴らしてエリオットを睨み続けていた。
『ダイヤ!行きなさい』
しかしミカウが声を張り上げたことで今度はしっかりとコマンドが行き届いたようだった。
威嚇を止めてエリオットの横をするりと抜けて牧場へと歩いていく。
バタン、と閉めた扉にもたれ掛かりながらミカウが口を開いた
『…ごめんなさい、あの子人見知りなんです…』
「構わないよ。犬として当然の立ち振る舞いをしただけさ。立派な番犬じゃないか」
『……コーヒーと紅茶、どちらがお好みですか?』
「ありがとう、コーヒーを頂けるかな」
キッチンに向かい飲み物の準備を始めたミカウの背を見つめたあと、エリオットはある物の存在に気が付いた。
これから座るように誘導されるはずのテーブルに数枚の手紙が散らかっているのだ
中でも、紫と青が入り混じった不思議な色の便箋が目を引いた。悪いと思いつつもその中身に注目してしまう。
──ミカウへ
何者かが貴殿の存在を嗅ぎ回っていると水晶が告げている。
あの町に貴殿のような半魔を過剰に毛嫌いする者はいないだろうが、十分に気をつけるんだ───
短文に纏められた内容でエリオットは確信してしまった。
動揺で手に持っていた便箋をはらりと落としてしまいそれを拾い上げようとしたとき、ミカウがこちら見ていることに気が付く
『…そ、れ…!見ないで…!』
彼の手から奪った便箋をクシャクシャに握り締め潤んだ瞳で見上げる
『…見…たんですか…』
「すまない…あまりにも変わった便箋で、その…」
『…お願い、誰にも言わないで…シェーンにも…』
「…!」
俯いて弱々しく囁いた彼女へ少しばかりの性的なサディズムを覚えてしまった
「もちろん。言わないよ。…ただ一つ、交渉させてくれないかい?」
『…交渉?』
「…執筆中の小説に挿し込むシーンのモデルになってほしい。そうしたら誰にも秘密は話さない」
勝手に秘密を知っておきながらなかなか下衆な脅迫をしている、と彼は自覚していた。
そして彼女がその条件を飲むしかないということも。
『………一回だけ、なら…』
「決まりだね。…大丈夫、酷いことはしないから。…おいで」
ミカウの手を引いて胸の中に閉じ込めると甘い匂いが鼻腔を刺激した。













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