dream

□エリオット
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「やぁミカウ、今日も釣りかい?それとも…わざわざ僕に会いに来たのかい?」
『釣りです』

特に興味もない、と言ったような態度でエリオットの横を通り過ぎ桟橋の上で釣竿を振るう
遠くで波の中に飲み込まれるルアーを見送ったあと、ミカウはそこを一点に見つめていた。
そんな彼女の隣にメモ用紙と万年筆を持ったエリオットが並び、長い髪を靡かせながら顔を覗き込んだ
「…ケーキ、好きなんだって?」
『!』
途端に自分を向いた美しい顔に彼はにこりと微笑んだ
「よかったらコーヒーを飲みながら美味しいケーキでもどうかな?実は君に薔薇の様子を見てほしくてね…」
『…薔薇?』
「そう。うちで飾ってるんだ。それが最近元気がなくてね…」
光に照らされてオレンジ色に輝く髪の毛を指にくるくると巻き付ける姿は、あまり人に関心を持たないミカウにすら"ナルシストっぽい"と思われる。
しかしそんなことを気にした素振りも見せないエリオットは、獲物を待つ彼女の釣竿を引き上げリールを巻き戻した
どうやら自分には拒否権など無いらしい、とミカウは諦めたようにリュックサックとクーラーボックスを担いだ。
満足そうに微笑む彼に腰を持たれ、その距離感に違和感を覚えつつも二人はエリオットの住まう小屋へと歩みを進めた。













─────────
「君のような綺麗な人を迎えるには相応しく無いだろうが…ようこそ、私の小屋へ」
『…お邪魔します』

一歩踏み進めた瞬間に床が強く軋んだ。潮風にやられた木はかなり傷んでいるようだった。
"こっちへ"と手招かれた場所へ向かうと、シンプルな机の上で花瓶に刺された薔薇が目に入った
彼の話していた通り元気がないようでやや俯きがちに咲くそれにミカウが優しく触れる
『……水って毎日与えてますか?』
「ああ、水やりは僕の日課だ」
『それが原因かも…』
「なんだって?」
少々オーバー目にリアクションを取るのが彼の個性かもしれないと少しだけ耐性がついてきたミカウは驚く彼に"植木鉢の通気性が悪いこと""水を与えるのは土が乾いてから"というアドバイスを与えた。
ふむ、と顎に手を当てるエリオットは何かを考えているようだった
「…こんなに美しいものを人の手で育てようなんてことが痴がましいのかもしれないな。でもありがとう、明日から君のアドバイス通りにやってみるよ」
『…?はい』
時折溢れる彼のロマンチックすぎる発言には首を傾げるしかないが、礼を言われてることに変わりはないのでミカウは少しだけ微笑んだ
つられるようにエリオットも柔らかな笑みを見せる
「さぁ、約束のケーキと洒落こもうじゃないか。ズズシティの有名店から買ってきたのさ」
『…!それって駅前の…』
「あぁ。よく知ってるね。どうやら君は本当にケーキが好きなんだな」
ハハハ、と歯を見せて笑うエリオットに誘導されるまま家の椅子へと深く腰掛けた。










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