dream

□シェーン12
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『ありがとうございました』

客へ頭を下げて姿を見送る。
今日の出品物は完売、祭での出店は大成功だった。
しかし出店用のテーブルの上から物が消えたにも関わらずミカウの周りから男性ギャラリーが消えることはなかった
狙いは彼女のバニーガール姿だろう
酒の入った中年男性からとうとう野次まで飛んできた
「ネーチャン!そのでっかい乳からミルクは出ないのかい!?」
『?』
谷間どころか全体が溢れてきそうな胸を指差される。あわよくばその指で突いてみようという魂胆が見え見えだった。
今更胸を指摘されるのは慣れたもののようでミカウは特段気にしてはいなかったが、男たちの一部は遠くからナイフのように鋭く突き刺さる視線を感じていた

(殺す、絶対殺す)
呪文のように胸の中で殺意を呟いてミカウを取り巻く男たちを睨むのは、マーニー牧場で飼われている動物の管理を頼まれたシェーンであった。
眉間に刻まれた皺は深く、彼の嫉妬を物語る。
シェーンの様子を見に来ていたハーヴィーが苦笑いを浮かべて彼の肩を叩いた
「やぁ、シェーン。…相変わらずだね」
「ハーヴィーか。あれ見ろよ、ミカウの周りの男ども…鼻の下伸ばしやがって。あ、アイツ触ろうとしてやがる!」
頭を沸騰させる勢いで怒り狂うシェーンを止める術が見当たらない、とハーヴィーはやはり苦笑いを浮かべる他なかった。











結構な売上金の入った小さな金庫を嬉しそうに持ち運ぶミカウの隣でシェーンは酷くぶすくれていた
祭も終わりが近付いてるというのに一向に引く気配のない人並み、男たちの視線は変わらずバニーガールの彼女へと向けられる
「チッ、見んじゃねえよ」
ハッキリと怒りの言葉を発したことに気付いたミカウが彼を振り返った
『…シェーン?…不機嫌そう…』
「お前は分からないのか?あいつらの視線が」
『…気にする必要がないから』
「そうかい、クールなことで」
皮肉と嫌味でミカウへ当たったところで彼女の頭上にクエスチョンマークが浮かぶだけ。
その後の数分の沈黙の間に必死に考えたのだろう、ミカウは小さく"あ"と呟いた
『…やきもち?』
「……悪いかよ」
『別に。ふふ』
人混みを抜けた二人はやっとミカウの家へ戻ることが出来たのだが、嫉妬に支配されたシェーンの機嫌は未だに戻ってはいなかった。
彼女が持参した荷物の入ったリュックを部屋の入り口に無造作に置いて、どっかりと椅子へ腰掛ける
「はぁ。ミカウ、ビールくれよ」
『…もう。まだ怒ってる…』
シェーンが彼女を愛称ではなくしっかりと名前で呼ぶ時は酷く機嫌が悪い時だ。
半ば呆れながらも荷物を運んでくれた礼として冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを取り出しそのまま渡すと、躊躇うことなく直ぐにプルタブが引かれた。
喉を鳴らしながらそれを流し込んでいくシェーンを見つめながらミカウも向かいの椅子へ腰掛けた。
『…飲み過ぎはダメ』
「誰のせいだ、誰の」
『…私のせい?』
「普通の格好すりゃいいだろ」
外された状態の大きなウサギ耳がついたカチューシャを手に持ち乱暴に投げると、テーブルの上で軽くて跳ねて床に落ちた。
それを拾うために椅子から床へ膝をついたミカウの艶かしい姿が、こんな状況でもしっかりと目につくもので。
今すぐにその肌へ手を伸ばして乱してやりたいという欲求が膨らんできた。
『…どうすれば機嫌直るの?』
「さぁな」
わざとつっけんどんな態度を取ってやればミカウは困りきった顔でシェーンを見上げた。
床に膝立ちしたまま、椅子に座る彼の太腿へ両手をついて。
『…もう…。なんでもしてあげるから…』
自主的に言わせることが出来たその言葉を聞いて口角が上がってしまう
「…へぇ。なんでも?」
嫌な予感を察した彼女が自身の胸を手で覆い隠したのを見たあと、缶に残っていたビールを一気に飲み干した。
ぐらり、強い酔いで世界が回る。









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