dream

□ヴィンセント2
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コンコン──

朝早く、誰かの来客を告げるノック音でミカウは目を覚ました。
前日の疲れを残した身体を無理矢理起こし、未だ眠りのチャンスを狙っている瞼を擦りながら扉に近付き声を掛ける
『……どなたですか?』
くぁ、と小さい欠伸をしている彼女へ聞き慣れない声が返ってきた
「ぼ、ぼくだよ!ヴィンセント!大きくなったから迎えにきたんだ…!」
『…ヴィンセント…?』
ミカウが知っている同名の人物はこんなにも声変わりしていないはずだ、と訝しく思いながら扉を開けてやると、そこに居たのはやはり見たことのない好青年だった
『…ごめんなさい、人違いだと思います…』
視線も合わせず扉を閉めようとすると、慌てた彼の掌がそれを阻んだ
「ま、まってよ!僕のことわからないの?」
『…………何処かでお会いしました?』
あまりに冷たいミカウの反応を心から悲しむように青年の目は伏せられる。その様子はまるで子供のようだった。
「……エルフを助けたいって魔法使いにお願いしたんだ……そしたら僕を1日だけ本物の勇者にしてくれるって……」
『…エルフ…?』
つい最近聞いたばかりのようなフレーズに一瞬固まったあと、ヴィンセントと名乗る男の顔を覗き込んだ。
今にも泣きそうだった彼はミカウの視線に気付いた途端、恥ずかしそうに視線を泳がせながら頬を赤らめていった
『…魔法使いって…シンダーサップの森に住んでる魔術師のこと?』
「!そ、そう!魔法の薬で僕を勇者にしてくれたんだよ!だからほら、背もお姉さんより大きくなったでしょ?」
表情をコロコロと変えながら話す彼は魔術師の薬によって一時的に成長したヴィンセントだと気付き、ミカウの顔に困惑混じりの笑みが浮かんだ
そんな彼女の頬に手を当て、ヴィンセントは目を輝かせる
「お姉さんの目って本当にきれい、宝石みたいだ!近くで見るとよくわかるね!」
『あ、りがとう…』
姿形は大人なのに発言はからきしで、とても不思議な感覚にミカウは戸惑っていた
しかし当の本人は今の姿を思い切り楽しんでいるようで、頬に当てていた手を離すと今度はミカウの手を取り満面の笑みを見せた
「ねえ、お昼になったら町までアイス食べに行こ!アレックス兄ちゃんが売ってるんだ」
部屋の中の壁掛け時計を振り返ると時刻はまだ朝の6時半
そもそも彼女には朝からやらなければいけない仕事が沢山ある
それを終わらせた頃にはアイスの販売も終わってるかもしれない。
ミカウは彼の顔を見上げる
『アイス…食べたいけど、やらなきゃいけないことが沢山あるの』
「お仕事?」
『そう。牛や鶏たちにご飯もあげないと…』
「それなら僕もやる!一緒にやれば早く終わるよね?早く早く!」
無邪気な彼に急かされるままミカウは慌てて着替えることになってしまった。










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