dream

□ヴィンセント1
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ポケットから沢山の小石を落としながらホップ・ステップ・ジャンプ、ヴィンセントが跳ぶ。
なんてことないただの1日でも豊かな子供の想像力で世界は変わる
前日、ペニーが読み聞かせてくれたファンタジー小説を思い出す彼はさながらドラゴンハンター
華麗な剣術を魅せながら石で造られた道を跳ね回る。
『…あ、ねえ』
その時、ヴィンセントの世界が現実に引き戻されたのだが、それはすぐにまたファンタジーへと色を変えた
小説の挿絵で見たエルフのような銀のロングヘアーが風に舞って目の前の女性自身を彩る
彼女は僅かに微笑みながら、手のひらから一際輝く小石を渡してくれた
『…これ、大事なものじゃない?』
「……あ!ありがとうお姉さん!これね、鉱山の近くで拾ったんだ」
蹲み込まれ近くで見たその顔がとても綺麗で、ヴィンセントは頬に熱いものを感じながら早口で話す。
彼女から返される穏やかな相槌が心地良くて次第に胸が跳ねるような感覚にも気付いた。
(お姉さん、こんなにきれいな人だったんだ…)
ミカウが視線を外したわずかな瞬間にその顔を見上げる
が、すぐにその視線に気付いた彼女から目を合わせられて耳まで真っ赤になるヴィンセント
『…?』
そんな彼を不思議そうに眺めたあと、小さな頭を柔らかい掌でくしゃくしゃと撫でた
『またね、ヴィンセント』
「う、うん!」
撫でられて乱れた髪もそのままに、自身へ触れたミカウの柔らかさを確かめるようにそこへ手を伸ばす。
彼の胸で恋心が芽を出した。










数日後───


「現れたなー!怪物め!エルフを離せぇ!」
「ぶっ!!!ッ誰が怪物だ!こンの悪ガキめ!」

後ろから与えられたそれなりの衝撃に驚きと怒りを覚えながらシェーンは振り返った
そこには木の棒を剣のように携えたヴィンセントが立ちはだかっており、勇敢な表情で彼を牽制していた
ミカウは一瞬驚きの表情を見せたがすぐにこれが"ごっこ遊び"だと理解して、へなへなとその場に座り込んだ
『たすけて…悪い怪物にさらわれちゃう…』
「ミカまで!…お前らなぁ」
「エルフを返してもらうぞぉ!」
ぎゅう、と強く握られた木の棒を高く振るい上げ果敢に立ち向かうヴィンセント、しかしその棒をシェーンがいとも簡単に拘束してしまった
バランスを崩して尻もちをついてしまうと臀部に鈍い痛みが走る
じわりと滲んだ涙を堪えて見上げれば、逆光の中で怪しくクレバーに笑うシェーンと目が合った
「へっ、エルフを返してほしかったらもっと強くなることだな」
悪役に徹した彼に力の差を見せつけられ、ヴィンセントは自身が子供であることを恨みたくなった。
シェーンに腕を引かれて連れて行かれるミカウが美しいドレスを纏っているような想像が頭の中を駆け巡る
その横顔へ誓いを叫ぶ
「…絶対むかえに行くから!!」
恋を教えてくれた日に拾われた原石がヴィンセントに莫大な力を与えるような気がした。
『…うん、勇者様』
微笑んだ彼女をさらえるくらいに大きくなることを願って、頬を伝いかけた涙を手で拭い払う。














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