dream

□シェーン8
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掲示板に貼られたカレンダーを見てミカウは固まっていた
三日後に記された"ハーヴィーとテトの結婚式"という文字があまりにも衝撃的だったのだ。
(テトちゃんが、結婚?)
花束を贈られたと嬉しそうに話していたあれがつい最近のように感じていたが、実はそれなりに時間が経っていたようで
プロポーズの瞬間に瞳を潤ませるテトのビジョンが浮かび、ミカウは幸せな気持ちに包まれていた。


「ミカウ!悪い、遅くなった…っ」

そこへ待ち合わせていたシェーンが約束の5分遅れで到着したのだが、肩で息をする彼の姿など全く見えていないミカウは変わらずカレンダーを見つめ続けていた。
普段から集中すると周りが見えなくなる彼女ではあったが今日の姿は一段と妙で、思わずシェーンも横から顔を覗かせた。
(今日誰かの誕生日だったか?……………結婚式ぃ!?)
彼がその文字に気づいたとき、 漸くミカウも存在に気付いたようで、未だ気持ちが浮遊したままの表情を彼に向けるのだった。


















「あの二人が結婚ねぇ……いや確かにさっさと結婚した方がいいとは思ったし言ったけどよ、まさか本当に結婚するとは…」
『…素敵なことだよ』

まるで自分のことのように語るミカウの表情はまさに夢心地といったところだ
酒を飲まなきゃやっていられない俺の気持ちなんて考えることもないんだろうな…。
何度彼女の顔を横目で伺ったところでその表情が崩されることはなく、本当に幸せそうなのが伝わってくるから困る。
(俺だってミカウと……いや、でも)
それで彼女が幸せになれるとは到底思えないんだ
俺みたいなどうしようもない人間と一緒にいるよりも他の男と一緒にいた方が彼女は幸せになれるんだと、人の形をした影が囁く
吐きそうなほど醜い感情に飲み込まれそうなとき、ミカウの顔がすぐ近くにあったことに気付いた

「み、ミカ?」
『…さっきからお酒、飲み過ぎ』
「そ…そうか?」
『…』

それはダメ、とでも言いたげなミカウの瞳は真っ直ぐに俺だけを見つめてるはずなのに毎日その事実を疑ってしまう。
きっと結婚してもそれは変わらない。
テトは幸せなやつだ
俺なんかよりずっとしっかりしてるハーヴィーと結婚するんだからな
背だって高いし、考えも大人だ、俺みたいに卑屈なことを言ったりもしないだろう
(ああ……何で俺はミカウと付き合えてるんだ?)
ビールジョッキを掴んだとき、俺の呆けた顔は強制的にミカウの方へと向けられた

『シェーン…!』
「あ………いや、ただの考え事だ」

勘のいい彼女のことだから俺のただならぬネガティブ思考を感じ取ったはずだ
いつもならそれに甘えて色々と聞いてもらうところだが…こんなこと絶対に話せない
話した先で彼女が傷付く未来ぐらい俺にだって見えてる。

ふとミカウの方を見れば、俺が払い除けた手を宙に浮かせたままこっちを見つめていた
優しく払ったつもりだったが…
なんだかとても痛そうに俺が払った手をもう片方の手で庇いながら、ダイヤモンドによく似た瞳がゆっくりと伏せられるのを黙って見ていることしか出来なかった。

「わ…悪い…」
『…残ってた仕事があるから』
「え?」
『飲むのは程々に』

自分のジョッキに半分以上残っていたビールを一気に飲み干し、そのまま俺を置いてミカウは立ち去ってしまった。
ほら、俺はいつだってミカウにあんな顔をさせることしかできない。
俺みたいな一般人以下がダイヤモンドを掴もうなんて、それこそが間違いだったんだ。

「はぁ…………俺はどうしたらいい…………」

今日はいつも以上に酔いが回るような気がした。











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