dream

□ハーヴィー2
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『せんせぇ〜、よっぱらっちゃった〜』

ひくっひくっ、と間抜けな音を鳴らしながら何度もしゃくりあげ、アルコールの作用によって紅潮した頬を隠すこともせずテトさんはにへらと笑っていた。
彼女の隣では友達のミカウさんが心配そうに背中をさすっている
特段の配慮をもって介抱しなければならないほど調子が悪そうには見えないが、数人で飲んでいたにせよテーブルの上のビアジャッキやワインの空き瓶の量を見ればどれだけの酩酊状態なのかは大体察しがつく。
診療所まで私を呼びにきてくれたシェーンは腕を組みながらこちらを見た

「…こんなんじゃ置いて帰ることも出来ないしよ、ここから家までの距離も近いしハーヴィーのとこに連れてってやった方がいいと思ってな」
「ええ…そうですね…」

相変わらずテトさんはしゃっくりを繰り返しているが自らが鳴らす音と動きが面白いのか、くすくすと肩を震わせ笑っていた。
その微笑みはとても可愛いのだけど…

「…テトちゃん、もう帰る時間だよ」
『んぅ〜?ミカちゃ、帰っちゃだめ〜っ!』

ミカウさんの胸に抱きつき愛らしく甘えて強請る姿は幼い子供のようだが、友達を困らせるのはよろしくない…
私はテトさんを、シェーンはミカウさんを後ろから引っ張る形で二人を引き剥がした

『あ〜〜!私のおっぱい枕ぁ〜』
「こ、こらテトさん…!そういうことを言わない…!」

名残惜しそうに両手を伸ばす彼女をすかさず横抱きにして持ち上げた
本当に牧場で仕事をしてるのかと疑うほどに軽いその身体の細さと柔らかさには毎回驚かされてしまう。


「…じゃあ、テトちゃんをお願いしますね、先生」
「わかりました。…二人ともわざわざありがとう」

先程とは打って変わって私の腕の中で眠ってしまいそうな彼女へ優しく笑いかけながらミカウさんは"またね"と囁いた
本当に良い友人を持ったものだ、と親心にも似た感情が湧いてきてしまう。










酒場を出てすぐのところで二人に別れを告げ、いつの間にか眠ってしまったテトさんを抱えて診療所まで戻る。
夏の夜風の心地よさをもう少し浴びていたい気もするが、今はまず彼女を寝かせてあげなければ。
二階の自室へ上がってすぐにテトさんの身体をやわらかなベッドの上に預けた
衣擦れの感触がくすぐったかったのか一瞬身を捩ったものの、ふと力を抜いて眠りに堕ちていく
どうしてこんなにも愛らしいのだろう。どうしてこんなにも美しい生き物が私の所へ来てくれたのだろう。
きっと私はこの自問を死ぬまで繰り返していくのだと思う。

香しいカモミールのようなシャンプーの匂いの中にうっすらと混じった煙草とアルコールの匂い
それは彼女がしっかりと大人であるということを裏付ける確かな証拠
小麦色の髪を掬ってその感触を頬で味わう
しかしすぐに汚れを知らない美しい髪の毛はさらさらと私の掌から逃げていった。

「……こうやって逃げられてしまう前に、ちゃんと伝えないといけないですね…」










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