dream

□シェーン4
1ページ/6ページ



それは酷い雨の日だった。

朝から続く強い雨は夜になっても止むことはなく益々勢いを増しているようにも感じた
しかしそんな時こそ夜釣りには最適の環境でもあり、目当ての魚を釣るために道具を持ち暗い森の中をずんずんと進んでいく。
どうせこの後はシャワーを浴びて寝るだけなのだからと雨具は一切準備しておらず、髪も服も何もかもが素肌に張り付いてしまい側から見れば何ともみすぼらしい姿に映るだろう。
自身のずぶ濡れの身体を見下ろしたとき、ミカウはその存在に気付いた

『(ビールの缶?)』

不自然なところにそれは転がっていた
まるで誰かの存在を知らせる道標かのように森の奥へと誘う物を次々に追いかける
一定間隔で散らかされた缶はどれも醜く潰されており、何かの執念を感じずにはいられない。
胸騒ぎが彼女を襲った。










『……シェーン!!!』

崖の寸前で倒れ込むシェーンの元へ駆け寄ると辛うじて息のあった彼がゆっくりと瞼を開けてミカウを見上げた
彼もまた同じようにずぶ濡れであったが、彼女の何倍も長い時間雨に晒されていたのか冷たく凍えているようだ
時折小刻みに震える身体は限界が近いのかもしれなかった。
その命を繋ぎ止めるために力の抜け切った上半身を持ち上げ太腿の上へと乗せる
ミカウが彼の顔を覗き込む形になることで多少は雨が防げるだろうと必死に考えたのだ
朧げな瞳に自身を写そうと何度もその名前を呼ぶ

『シェーン…!シェーン!』
「あ、ぁ、ミカ」

やっと返事が返ってくるもそれは雨の音にかき消されてしまう程に小さく弱々しい

「なん、で…ここに居る、?」
『…それは私が聞きたいっ…!』
「俺か、?…俺は」

氷のように冷たい指が崖の向こうを指した

「今日も、飛び降りれなかった…この間もそうだ……俺なんて、俺の、人生なんて、いつもそうだ」

"何を言ってるの"と尋ねる気持ちを抑え彼の言葉に耳を傾ける

「なぁ、ミカウ、なんで…人間は生きてなくちゃ、いけねえんだよ?今ここで、飛び降りたらいけねえ理由はなんなんだよ…」

冷たい雨の中に混ざる涙の粒
瞳から溢れたものから順番にシェーンの頬を伝い彼女の皮膚へ溶け込んでいった。
一体なにが彼をここまで追い詰めているのか、伝染しそうになる涙を堪えてミカウは精一杯声を張り上げた

『…っあなたはそう思ってるのかもしれない、でも、シェーンを大事に思っている人間がここにいるの!』

意識を切り離しそうなところで降り注いだのは冷たい雨だけではなかった

「…ありがとう…感謝、してるよ、本当に。…………なぁミカウ…俺のために、泣いてくれてんのか…?」


凍えた指で彼女の涙を掬おうとしたとき、蝋燭の火が吹き消されたようにシェーンの意識は途切れた。











次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ