dream
□シェーン2
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「はん、夜ふかしだねぇ」
この時間この場所にいるなんて珍しい。釣り用桟橋の上に腰掛けて一人酒を呷っていたのはシェーンだった。
"冷えてるぜ"と手渡された未開封の缶には普段飲むことのない強い酒の銘柄が描かれていたのだが、向けられた好意を無下にする必要もない。
シェーンの隣に腰掛けつつ缶のプルタブを引き起こせば、泡が弾けるような小気味良い音が辺りに響いた。
「なああんた、わかるか、なにをしようが、失敗するに決まってるって感覚。感じたことあるか?」
突然なにを言い出すのかと思えば。
少々呆気に取られながら横目で彼を見れば、いつもの悪態や嫌味をつく男とはまるで違うイメージの存在がそこにいた
「正直さ、あんたみたいに突然新しいことを始められるやつが羨ましいよ…俺みたいのは始める前からダメだってわかってんだ」
飲み干された缶はシェーンの手によって凹まされ無残な姿に変わり果てていたが、だからといってその腕に力がこもっているようには見えなかった。
肩がすくみ、背中を丸め、決して大きくはない彼の身体がより一層小柄に見えてしまう
「…マーニーに言われたよ。"その人の為に頑張れるような人を見つけなさい"ってな」
「けど今更どうしろって言うんだ?あんな場所で働いてて、こんな小さな町で暮らしてて出会いなんてあるわけないだろ?」
弱々しい絡み酒と言ったところだろうか
彼のテンションに付き合うには今のペースじゃ無理だ、とミカウも残っていた酒を一気に流し込んだ。
「へへ、いい飲みっぷりじゃねえか…気が合いそうだな」
にへら、と音が聞こえそうな腑抜けた笑みを溢すシェーン
「まぁ、ほどほどにしとけ…あんたにはまだ、未来ってやつがあるんだからよ」
少しだけいつもの彼の調子に戻ったような気もするが、それでも弱々しい雰囲気は拭えていない。
子供のような子犬のような、なんとも言えないその空気を醸し出す彼を見ていると、母性と加虐心の双方が顔を出してくる。
最初から大きく距離が空いていたわけではないが更にそこを縮めるよう少しずつ寄っていけば、シェーンは動揺を隠すことが出来ないようだった
恥ずかしそうに逸らされた顔を無理矢理こちらへ向かせると、アルコールとは違う作用で赤くなった頬から熱が伝わってきた
「あっ、あのさ、おれ、そういうのわかんねえんだよ」
瞳をあちこちに動かしながら対抗して見せるが、大きく開けられたシャツの襟から覗ける胸の谷間の誘惑には勝てないようだった
ごくり、と生唾を飲み込む音が彼女にまで届く。
「おれ、そういうこと…ほんとしたことなくて」
"情けないよな"と無理矢理笑っているが、シェーンの瞳がこの先のことを期待してるのはしっかりと伝わっている。
先程とは打って変わって落ち着きのない手を捕まえ、自身の胸へと誘導すれば、ますます彼の期待が膨らんでいるような気がした
『…初めてが私じゃだめ?』
「!!!!?」
耳元で囁かれる誘惑に、シェーンは抗うことができなかった。
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