⊂ESSEY&NOVEL⊃

□ミワ物語
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 「ヤッちゃんが死んでから急にミワちゃんの様子が変わってしまったのよ...」M美がそう話していた。

 それは大切なパートナーを亡くした喪失感からなのか、時よりボーッと一点を見つめ悲しそうな仕種をするようになったと言う。


 それでもミワちゃんは老体にムチ打ち、柱や壁やいろんな物にぶつかりながらも、M美のいる隣の部屋までやっとの思いでたどり着き、「お尻をトントン叩いておくれ...」とお願いする。

 しかしその時も、やっぱりミワちゃんらしく「ニャーッ...」とあの低く高びーな泣き声だと言う。


 そんなミワちゃんの「お尻をトントン叩いておくれ...」に応えた後は、クルクル回っている高速回転の瞳を沈めるように、ゆっくりゆっくり身体を撫でてあげる。

 そして気持ちが良くなってくると、今度は自ら身体をひねり、お腹を上にして「”ぽんぽん”もよろしくね...」とおねだりする。
 この時のミワちゃんのとる体勢がとてもユニークで、だんだん気持ちが良くなってくると撫でているM美の腕に、す〜っと片足を乗せてくる。恥じらいもなく両足をおっ広げるミワちゃん...何とも愛らしくてついつい笑みが零れてしまう。


 いい加減仕事に戻らなければいけないM美は、「ねえミワちゃん...もうい〜い?」と聞いてみても、ミワちゃん一向に片足を下ろす気配はない。

 仕方がないので「ねえミワちゃん...あとでまたやってあげるから...」と切り上げ、仕事に復帰する。

 しかし、何気なく言った言葉、他愛ないこの言葉をミワちゃんは聞き逃さない。

 夜、仕事も後片付けも終わりお茶を飲んでいると、いつの間にか隣の部屋からやって来て「ニャーッ...もう後片付け終わったぁ?...」と、やっぱりあの高びーな泣き声でお願いすると言う。どうやらミワちゃんは仕事が終わった後の団欒(だんらん)を理解しているようだ。


 ところがこの日、M美が遊びに来てるにも関わらず、いつものようにお願いしないミワちゃんは、すっかり憔悴しきった様子だった。

 Kさんに聞いてみるとここ数日間、御飯も水も取れない状態だと言っていた...少し悲しい気分になった。

 とにかくM美はミワちゃんをベッドの上に乗せ、身体とお腹をいつものようにゆっくりと優しく撫でてあげた。

 僕は隣の部屋でバニラフレーバーのコーヒーを飲みながら、Kさんと今月の予定について話をしていた。


 すると...。

 「ニャーッ...(ありがとう)」

 「なぁに〜っ?」

 「ニャーッ...(ありがとうね)」

 「なぁに〜っ?」

 「ニャーッ...(もういいんだよ)」

 「........」

 と、いつもの様にミワちゃんとM美の”会話”が聞こえて来た。


 今年はブランドH.Kの仕事が珍しく11月で終わってしまった為、12月に入ってからM美はず〜っとミワちゃんのことが気になっていた。

 僕らも10日までに仕上げなければいけない仕事があったので、とにかくそれが終わったらKさん宅に遊びに行こうと二人で話していた。

 久々にミワちゃんとふれあい少しだけホッとした僕らは、年末にまた来ることを約束し取りあえず帰宅した。
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