⊂ESSEY&NOVEL⊃

□ガラスの森
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GO DOWN

 7年程前、ファッションの好みが突然ブリティッシュ系からアウトドア系に変わったことがある。

 それまでアウトドア系には全く興味はなかったのだが、とにかくどうしてもあのファッションをしてみたくなったのだ。

 これは自分のことながら、どういう心境の変化でそうなったのかは分からない。ただ、日に日にその理由を心の何処かで感じ始めるのだった。


 アウトドアファッションに殆ど知識のない僕は、アウトドアファッションとはいったいどういうものなか、ファッション雑誌を買って詳しく情報を採ることにした。


 ところが自分が予想していた以上に”山系”は奥が深く、見た目のデザインには大きな差はないが、タウンユース(街着用)とマジモノ(登山用)とでは、プライスに大きな差がった。そしてもう一つ、機能と言う点において大きな違いがあり、やはりタウンユースは所詮街着用であって、素材的にも物足りなさは否めなかった。


 ファッションとは面白い物で、いわゆるマジモノをストリートに取り入れることは昔からよくある。何年か前に流行ったレッドウイングのアイリッシュセッター(ワークブーツ)しかり、軍モノしかり元々タウンユースではないアイテムを取り入れることで、逆に街では見栄えすることもあるのだ。ようするにカッコ良ければ何を取り入れても良いという訳だ。


 繰り返しページを捲り雑誌上の情報収集が一通り終わると、今度は実際にアウトドア系のセレクトショップを回り、そのアイテムを自分の目で確かめ触れてみることにした。


 僕自身、興味のあることは何事にもこだわりを持ってしまう性格なので、一つ一つ丁寧にそして情熱的に蘊蓄を語る店員さんの話に、注意深く耳を傾け感心しながら頷いていた。


 既に雑誌でアイテムを絞り込んでいた僕は、結局誰もが知ってるポピュラーなブランドを敢えて外し、ALTUSの黒のシンパテックス(マウテンパーカー)、Koberの黒のバックパック(35リッター)、グレーのボディにくすんだ黄色のウエーブ模様が入ったナイキのトレッキングシューズ(海外別注)と,すべてマジモノで買い揃えた。この3点で軽く10万円を超えてしまい、ちょっとビビった。


 それでも元々UKスタイルが好きなので、普段はデニムや軍パンに合わせてストリートファッションを楽しんでいた。


 ところが暫くするとストリートだけでは飽き足らず、ハイキングや軽い山登りがしたいと言う欲求が芽生え始めて来たのだ。

 この時、何となく都会の生活が少し煩わしいと感じていたのは事実で、きっと心が自然を求めているのかも知れない、そう思うのだった。


 ある日の事、雑誌を見ていると「箱根ガラスの森美術館...ヴェネチアン・グラスは、古代ローマ時代のローマン・グラスの発明にその起源を発するともいわれ...」のページが目に止まり、一瞬にして心を奪われてしまった。

「行きたい!ここへ行ってみたい!」それは強烈なインパクトだった。


 そして、アウトドアと芸術観賞といった対照的な2つの世界がゆっくりと解け合い、久々に胸が高鳴る心地良いイメージが膨らみ始めるのだった。


 「箱根登山道をハイキングしながら、ガラスの森美術館を目指す...そして芸術観賞...最高だ!最高のプランだ!おそらくこの日の為に、未体験だったアウトドアファッションに心を突き動かされたのだ...」そんなことを考えるだけで平凡な毎日を、楽しく過ごすことが出来た。

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