漫ろ雨

□曇天
1ページ/10ページ

泣き出したい気持ちを紛らわせる為に立ち寄ったドン・キホーテ。


気になっていた商品が自分の手の届かない所にある。
周りを見渡すも踏み台もなく懸命に手を伸ばす。


後ろからスッと手が伸びその商品を容易く取る。


「これで良かったかな?」


そう言葉をかけられ商品を差し出される。


「あ、ありがとうございます。助かりました。」

そう伝えその人を見る。

スラリとした手足、無精髭を生やし、シャツは胸元まで開いて、気だるそうな雰囲気を纏っている。

そんな事を思っているうちに、その男の姿は雑踏に紛れた。

気を取り直して、他の売り場を見て回る。


「もぅ、ダイエットなんて気にしなくて良いか。好きなの食べちゃおう。」

カロリーを気にして控えてたカップラーメンに手を伸ばす。

………!?

同じタイミングで同じ商品を取ろうとした人物と手がぶつかる。

「あ、すみませんっ。」

慌てて手を引っ込める。

「こちらこそすいません。………って、さっきはどーも。」

先程の男が同じ商品を取ろうとしていたのだ。

「コレ美味しいんだよねぇ。君も?」

「あ、ええ。久々に食べたくなっちゃって。本当コレ美味しいですもんね!」

そんな言葉を交わしてから買い物を済ませる。


店の外に出てみれば雨が降りだしている。折り畳み傘を取り出し開く。

「あーー。降ってきちゃった。」

先程の男の声が聞こえた。

「あ、あの、この傘使って下さい。」

男に傘を手渡し足早に店を出ようとすると

「え?君が濡れちゃうってば!」

そう言って引き止められた。

「今日は濡れて帰りたい気分なんで大丈夫ですから。」


「いやいや、そんな事出来ないから。あ、じゃぁこうしない?
俺の戻り先はすぐそこだから、君の傘を差して送ってくれない?」


「へ?ま、まぁ良いですけど……」

「それじゃぁ決まり!」

男は私の傘を差し、私が入れるスペースを作って待っている。
所謂相合傘だ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ