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□成り代わり希望
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駆け付けた時には既に遅しだった。正に私の大事なバラディウムちゃんがクロノアによって倒される瞬間を目の当たりにしてしまい、堪らず絶叫。


「いやあああ!私の幻獣ちゃんがあああ!」


膝から崩れ落ちた私を見て、クロノアがナマエ!!と敵意剥き出しで睨み付けてくるので私も反射的に睨み返す。おのれぇクロノアめ、バラディウムちゃんの仇!と思って連戦を挑むけれど。クロノアはやっぱり強かった。見事コテンパンにされてしまい、私は捨て台詞を吐きながらそそくさと撤退する。ううっ、最悪だ。それもこれも、ジョーカーが私のバラディウムちゃんを連れて行ったりするから!バラディウムちゃんはめちゃくちゃ私に懐いていて可愛くて一番のお気に入りだったのに…!!なのに当のジョーカーと来たら、ボロボロに逃げ帰って来た私を一瞥するなりおやまぁと鷹揚に笑ってみせるから腹が立つ。


「これまた随分と酷くやられましたねぇ」

「誰のせいだ誰の!」

「ふむぅ、誰でしょう」

「お前だよ!よくも私のバラディウムちゃんを…!」

「嫌ですな、あなたの大切な幻獣ちゃんをやっつけたのは私では無くクロノアちゃんですぞ」

「元を返せばお前のせいだろ!?勝手に連れて行ったりして。絶対許さない」


奥歯をギリギリとさせながらきっ!とジョーカーを睨み付ける。しかしやれやれ、と肩を竦ませて余裕ぶるジョーカーに余計苛立ちを煽られた。


「所詮はその程度の幻獣だったという事です」

「なんだと〜?」

「それに、あなたには私がいるではありませんか」


思わぬ言われ様にはあ?と、まるでムゥが風玉を喰らった様な顔をして制止する。ジョーカーは依然とポーカーフェイスを保っており、何を考えているのかはサッパリ読めない。


「何言ってんのジョーカー」

「そのまんまの意味です。あの子みたいにお空は飛べませんが、あなたが悲しんでいる時辛い時、側にいて頭を撫でてあげる事くらいは出来ますよ」


言葉通りよしよし、と、私の頭を撫でつけるその手をぺしんと叩き落としてやる。おやおや。ジョーカーが自身の手を擦りながら私の事をみやった。


「わ、私はバラディウムちゃんが良いのっ、悲しい時側にいて欲しいのはお前じゃない!」

「…」


バラディウムちゃんとの思い出がグルグルと脳内を駆け巡ってしんどくなる。その広い背中に私を乗せて、悠々と空を飛び回っていたバラディウムちゃん。私がガディウスさまに叱られて落ち込んでいた時、心配そうに擦り寄って慰めてくれてたバラディウムちゃん。可愛くて仕方がなかった、私の、大切な…。ぼろぼろ。必死になって耐えてたけど、我慢しきれなくて大粒の涙がどんどん頬を伝い落ちていく。こんな私を見てジョーカーはまたくだらないと小馬鹿にしてくるんだろうなと思ったけど。予想に反して、ジョーカーは僅かに低い声色でひっそり囁くからビックリした。


「…死んでも尚ナマエの心を掴んで放さないとは…忌々しいことこの上ない」

「っな、」


呆気に取られてぼう然と固まる私を傍目に、ジョーカーはニッコリと満面の笑みを貼り付けながら立てた両人差し指を頬へと押し当ててポーズを取った。


「ほらナマエちゃん、私がついてますよ」

「ばっ、バカか!可愛くないんだよっ!」

「辛辣ですねぇ」


最悪だ。一瞬だけ、ドキリとしてしまった…。内心ヒッソリとドギマギしている私を見透かした様に、ジョーカーがくつりと喉の奥で笑って目を微かに細める。


「いつか絶対、あなたの心を奪ってみせますよ」


ちくしょう。相手はジョーカーなのに。そんな口説き文句にまんまとドキドキしてしまうから、悔しい。



20230417

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