第五人格

□天使はどちらか
1ページ/1ページ

戦犯かまして秒で吊られてしまったのはわたしです…。仲間の皆さん本当の本当にごめんなさい。椅子に座らされた所為で出来ないけど、可能なら今すぐ頭を地面に擦り付けて謝りたいくらいです。広い空を見上げながら大きく溜息。ハンターさんも流石に可哀想と同情してくれたのか、それともこんな奴キャンプする価値も無いと見放されたのか。椅子に括るなり早々何処かへと行ってしまわれた…。わたしを助けなくて良いとは言ったけれども、いざ救助が来ないとそれはそれで凄く切ない。ぎゅっと胸が詰まって顰めっ面になってしまう。


「(はああ、このまま飛びかぁ…)」


ボンヤリ空を眺めて物思いに耽っていると、不意にフワリと顔を覗き込まれて大きく目を見開いた。驚いて仰け反った拍子に頭を椅子の背凭れにぶつけらしくて、後頭部がじんわりと痛い。けれども、そんなの全く気にならないくらい目の前の人物に目を奪われてそのまま放心してしまった。


「天使だ…」


天使がいる。わたしの拘束を解いてくれているルカくんについポロリと本音を溢してしまうと、ルカくんは可笑しそうにしながらクスリと笑って。何を言っているんだとわたしの手を引いて抱き起こした。エミリー先生では無いよって、そう付け加えるルカくんに今度はわたしの方が小さく笑みを零す。ふふ、流石にエミリー先生と見間違えはしてないけどさ。白スーツにパリっとした白衣、そして頭上には金色の輪っかという見た目が既にそうだし、極め付けはこんな戦犯でもちゃんと助けに来てくれる辺りがどこからどう見ても天使だった。わたしの手を引きながら逃げる、ルカくんの横顔をじっと見詰めて桃色の溜息。えー、UR衣装かなぁ。めちゃくちゃカッコいい。見惚れている間にもぎゅっと、わたしの手をしっかりと握り締めるルカくんに気が付いてしまって吐血するかと思った。んんん!ルカくん、尊い…。

ここまで来ればもう大丈夫だろうと言うルカくんの予想通り、離れた方では既にアニーちゃんがセカンドチェイスを始めていてひっそりと安堵の息を吐く。トンネル回避成功だ。助かった〜。反射的に板裏へと隠れて呼吸を整えていると、直ぐ様ルカくんが治療をしてくれるので胸がキュンと疼いた。エミリー先生では無いけれど、と。再度そう言いながらも、テンポよく怪我の手当てをしてくれるルカくんに好きが溢れて止まらない。あああ、このまま一緒に解読デート出来ないかなぁ。出来ないよなぁ。ちらり。コッソリとルカくんの顔を覗き見して小さく悶える。は、ハーフアップだ〜!ポニーテールルカくんも良いけどハーフアップも男前でカッコいい!ブロンドヘアも似合うし、何よりも目が綺麗なマリンブルーをしていて視線を奪われた。はわぁ、睫毛長いなぁ。羨ましい。しかしじっと見つめ過ぎたのか、不意にバチっと視線がかち合ってしまいはっとする。


「あっ!ええと!」


1人焦って言葉に詰まるわたしのオデコを、ルカくんがツンとつついて。見過ぎだと柔らかい声色で呟くので心臓をギュッと掴まれる思いだった。ん〜っ!好き!!だけど治療が終わるなり、ルカくんはわたしに気を付ける様注意しながら直ぐ様暗号機の方へと行ってしまったのでコッソリ落胆する。んああ、行ってしまわれた…。分かってたけど、名残惜しいなぁ。まぁ、戦犯かまして即死したわたしにそんな我儘言う権利毛頭も無いんだけど…

きょろ、きょろ。辺りを見回してからわたしも暗号解読に着手し始める。アニーちゃんは凄く有能なチェイス班だった。気づけば暗号機も残りあと2台…。わたしが今解読してる所ももう残り3割だし。ハンターさん、わたしをキャンプしなかった事今頃後悔してるんじゃないかなぁへへへ。等と、この時のわたしは大分調子に乗っていた。勝ちを盲信していた。しかしザワザワと。途端に空気が張り詰めて肌がゾワリと栗立つのに目を瞠る。これは!


「しゅんかんいどっ、!」


慌てて暗号機から手を離してその場を離脱しようと試みるけど、やっぱりハンターの足は早かった。すぐ様追い付かれてしまい悲鳴を上げながら走る。ひいいん!死ぬううう!!背中に一撃を喰らって、加速しながら訳の分からない方向へと逃げている事に気付いて青ざめた。


「(まずい、しぬ…)」


ヘロヘロと走りながらも、直ぐそこにアニーちゃんの弾射板車を見つけて咄嗟に飛び乗る。もうこれしかない!と思っての判断だったけれども。ぎゅんっ、と、身体が一気に空へと放り投げられて気絶するかと思った。「わああ!やっぱり死ぬぅ!死んじゃうう!」これ初めて乗ったけどこんな感じなの!?一瞬で空を飛んだかと思うと今度は一瞬で落下していく。しかも後ろからは迫り来るハンター。しかもしかも、私の降り立った先には解読途中のルカくんが…!最悪だ!!着地に失敗して、そのままルカくんへと顔面から突っ込んで盛大に頭を打ち付けた。「いいっ、!」ごちん。酷い音がした。チカチカと、頭上で星を回しながら頭を抱えるルカくんを見て絶望。


「わーんっ、ごめんねごめんねルカくん!本当の本当にごめんなさい!!」


巻き込みチェイス、おつ。目を覚ましたルカくんが電気ビリビリで一瞬ハンターさんの事をスタンさせてくれたけど。それも僅かな時間稼ぎにしかならなくて焦る。直ぐにまた攻撃を振って来たのに気付き、慌てて回避した後にフラリとよろけた。こっちだと、わたしの手を引いて板の裏へと誘導してくれるルカくんがやっぱり天使でトゥンクしてしまう。感激の余り、思わず本音がポロリと漏れた。


「天使だ…」


やっぱり天使がいる。そう呟いて直ぐにピタリ、と、何故かそこで逃げる足を止めたルカくんに驚いてえっ!?と声を上げた。


「るっ、ルカくん!?どうし、」


頭上からすっと差し込んできたハンターの影に気が付いてゾッとする。荒くなる呼吸のまま空を仰いだそのタイミングで、ハンターさんからの攻撃を受けてうきゃあ!とすっ転んだ。い、いたい…、ダメだ、頭グラグラするし目の前が真っ暗で起き上がれない。そのまま椅子へと括り付けられてしまい、通電はしたけどわたしは飛び確定となってしまった。一足先に荘園と戻されてから慌ててゲームの続きを確認する。ルカくん、は…あーっ、ダウン取られて既に椅子だ!うわぁ!


「ルカくん…」


さっと血の気が引いて青ざめる。結果的には2人逃げで引き分けではあったけど、ルカくんが捕まって吊られてしまったのは間違いなくわたしが原因だった。同じく荘園へと戻って来たルカくんにすぐ様駆け寄って、今にも泣き出しそうな顔でごめんなさあああいっ!と蹲り土下座をかます。


「ルカくんわたしの所為で、ホントのホントに申し訳ないですうう、!最初から最後まで足引っ張って、一体どんなお詫びをしたら良いかっ」


両手から頭までをペッタリと地面につけて項垂れるわたしを気に留めず、ルカくんは相変わらず顎に手を当てて何か考え事をしていたのでほえ、となった。つい間抜け面を晒してきょとーんとしてしまう。真剣に考え事をするルカくん。麗しい…、じゃなくて。


「あの、ルカくん?」


ちらり。不意にルカくんがわたしの方を見やるのでドキッとする。ルカくんはわたしの目線の高さに合わせてしゃがみ込むと、顔を近づけながらさっきも思ったのだが、と言葉を紡いだ。マリンブルーの瞳が綺麗過ぎて、無意識のうちにも息を呑む。


「天使なのは、君の方じゃないのか?」

「…へ、」


空から降って来た瞬間、天使が落ちて来たのかと思ったと。そう悪戯に微笑んでみせたルカくんにぼんっと熱が弾けて顔が真っ赤になる。「なっ、なっ、何を言って!?」1人テンパるわたしに構わず、ルカくんは妙にスッキリとした様な顔でわたしの横を通り抜けヒラリと手を振った。その後ろ姿をじっと脳裏に焼き付けながら、わたしはばっと手を組んで荘園の主に願う。荘園主さん、どうか、どうかわたしにも真っ白で可愛らしいワンピースと羽と金色の輪っかを下さい。それでルカくんに会いに行って、お揃いコーデ決めたいです。これで正真正銘の天使だなと言われたいです。どうか、どうかーっ!念を込めてうんうんと唸った末、ほうと桃色のため息。


「…はあ、ルカくんカッコよかったなぁ」


先程のルカくんを思い出してうっとりと目を閉じる。甘酸っぱい余韻に浸りながら、わたしは再度ため息を吐き1人で悶えるのであった。



20221227

次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ