第五人格

□君と迷子
1ページ/1ページ



地図を持ちながらうんうんと唸って、左へ3歩進んだかと思うと今度は右へ5歩歩いてフラフラしていたイソップくんを見つけて「あっ!」と声を上げた。駆け寄る私に気が付いたらしい。イソップくんも顔を上げて私の姿を捉えるなり「あ、」と短く漏らして視線が合う。


「良かった〜!ここにいたんだね」


最近出たばかりの割と広いフィールドマップ。何がどこにあるのか分からず完全に迷子になっていたらしいイソップくんは、私が迎えに来たと勘違いしているらしく。どこか安堵した表情に眉を下げながらお礼を述べてきたのでギクリとする。


「あはは…ごめん、イソップくん」


苦笑い混じりに謝ってみる。察しのいいイソップくんは既に悟ってくれたようで、ヒクリと僅かに表情を痙攣らせていた。「実は私も迷子なの」やっぱり!そう言いたげに頭を抱えてううん!と項垂れていたイソップくんだけど、直ぐに立ち直ると再び地図を持ち直して辺りをキョロキョロと見渡し出す。切り替えが早い。流石イソップくん、冷静だ。取り敢えず私も彼の隣に並び地図を覗き込んでみる。突然至近距離に来られて驚いたのか、イソップくんが僅かに肩を揺らして距離を空けたのに、仕方ないと分かっていても寂しくなった。イソップくんが居心地悪そうにしている…。早く離れなきゃという焦燥感から、私はまともに地図を見ていないまま顔を上げて適当な方向を指差した。


「わ、私あっち行ってみるね!」


じゃあ、また後で!そう走りだそうとした所に、後ろから服を掴まれてカエルの潰れた様な声が出る。う、今の声絶対可愛くなかった!一人焦る私を全く気にした素振りなど無く、そうして私を引き留めたイソップくんは、目を泳がせながら離れない方がいいと提案してくれたので少しだけホッと安心した。良かった、どうやら一緒に居てもいい権利は得たらしい。改めてイソップくんの隣に並んで再度地図へ視線を落とす。ええっと、この建物がこれに値して、道がこっちに伸びてるから…


「…取り敢えずあっちの方角かなっ?」


そう、今度こそきちんと確認して歩き出そうとするけれど。どこかげんなりとしたイソップくんに制されてしまい首を傾げる?


「ええと、違った…?」


こくこく頷いてみせるイソップくん。こっちじゃないかと彼が指差したのは真反対の方向で、私は一気に顔が熱くなるのを感じながら俯いた。うわ、地図も読めないとか…は、恥ずかしすぎる…!


「あ、あはは、ごめんね!方向音痴、で…」


情けなさ過ぎて目も合わせられずにいると、不意に服の袖を引かれてドキリとする。暗くて危ないのと、私が勝手にあちこち歩いてはぐれない様に。手を直接繋がないのがイソップくんらしいと思ってまたドキドキした。…なんというか、意外だ。さっき遠目で見かけた時のイソップくんは、どの方向へ進もうか迷っている様に見えたのに。チラリ。イソップくんの横顔を盗み見て直ぐにまた視線を地面へ落とす。今は率先して正しい道を選びながら、私の事をリードしてくれている。


「(…頼りになるんだな、イソップくんって)」


行き止まりに当たってもスタンプを目印に貼り付けて、来た道を戻りながらまた地図を確認する。沢山歩かせてしまってすみませんと謝るイソップくんは、私の靴ずれを心配してくれていた。


「ううん!全然…。イソップくんは?疲れてない?」


こくり。静かに頷いてみせたイソップくんにそっかと私も笑いかける。そうだ、帰ったらお礼にマッサージしてあげるねと言えば、何故かゴホゴホと咽せ出したイソップくんにきょどりながら首を傾げた。咽せ過ぎちゃったのかな。心なしかイソップくんの顔が赤い。


「だ、大丈夫?やっぱり身体に触られるの嫌だよね、ごめんね…」


まさかそこまで動揺させてしまうとは思わなくて申し訳なくなる。いや、とか、べ、別に、とか。歯切れ悪くも否定をしてくれるイソップくんの優しさが身に染みてキリキリとした。


「そんな、気遣わなくても大丈、夫…ねぇイソップくん!解読機の音がするよっ?」


ピコピコ、ぴこぴこ。間違いない、誰かが解読に集中している!嬉々とした顔で音のする方へ駆け寄ろうとした刹那、後ろから手を握られて反射的に振り向く。見ると、困惑しながらも私の事を見つめるイソップくんと目が合って放心した。


「イソップくん…?」


マスクに隠れた唇が、ゆっくりと音を発して言葉にしていく。握り締められている部分からジワジワと、ゆっくり熱が伝わっていく気がした。



20210120

次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ