第五人格

□そんなに泣いてると涙食べちゃうよ
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「えぐ、えっぐ!どうじでだよおおお!」


ボロボロに泣きながら、わたしはただひたすらグラスを握り締めて酒を煽り散らかしていた。詰まるところヤケ酒だ。投げキスして、ハート花火して、沢山エモート見せて。マジックステッキや本を使った可愛いアピールもしたのに。ラグビーボールで突っ込んで、ずっとずっと一途でいたのに。彼はわたしの思いには応えてくれなかった。ごめんなさいと、わたしを振った想い人の事を思い出してしまい号泣。


「こんなに、良い女なのにっ、振るかぁ?普通っ、!何で落ちないんだよお、ちくしょおおお」


わたしの愚痴を聞いていたノートンくんが、「はいはいそうだねー」と軽く流して薄ら笑う。適当な相槌を返すノートンくんにムっとして、わたしは静かにノートンくんを睨みつけた。


「おい、ちゃんと聞けよ!」

「聞いてるよ。だからもう飲むのやめな?飲みすぎだって」

「いやだっ!のまなきゃやってられないもん!」


「まったく」と呆れたようにノートンくんが呟く。そのままグラスに並々と注がれた酒を一気に飲み干して、わたしはズルズル机に突っ伏した。うう、まだのめるもん。飲むぞぉ。ぐびぐびと酒を飲みながらも、その脳裏ではやっぱり大好きな彼の姿が浮かんでしまい容易く涙が溢れ出す。ぼろり。大粒の涙を零してグズグズと泣き始めてしまったわたしに、ノートンくんは仕方なさそうに頬杖をついた。


「ほら、また泣いてる。もうさ、いい加減諦めたらどう?」

「うっ、う…やだあ!諦めないもん!まだ、まだわたしは…っ!」


ノートンくんの言葉に目をギュッと瞑って俯く。諦められる訳がない。だってこんなにも好きなのだ。見ているだけでもときめいて、些細な言動で一喜一憂して。キラキラした眼差しで追いかけていたい。ずっとずっと、恋する可愛い乙女でいたい。そんな思いを全部抱え込んでううう〜と呻いていた所に、ノートンくんのため息が降り注いで来て眉根が寄る。「良いの?可愛いとは掛け離れた姿してるけど」と余計な事を言うので横目で睨み付けた。やめろ、そんな顔するな!そう抗議の声を上げようとしたわたしの言葉を遮り、ノートンくんが「本当によく泣くねぇ」とぼやいた。


「いい加減泣き止まないと、その涙食べちゃうよ」


とか、よく分からない事を言われて思考がピタリと停止する。少しの間真面目にその意味を考えてみたけれど。お酒の回った頭では到底理解出来そうになかった。


「はぁ…?何そ、」


れ、と、言いかけてる途中でノートンくんがわたしの目尻に唇を寄せて、ぢうと涙を啜った。ビックリし過ぎて一瞬で涙が引っ込んでいく。ぺろり。自身の上唇を舐めるノートンくんをシンプルにサイコパスだと思った。「っな!?えっ!!」と引き気味にノートンくんを見るわたしに、彼は「しょっぱい」と当たり前の事を言って顔を離していく。


「水持ってきてあげるから少し落ち着きなよ。戻って来ても泣いてたら、また涙食べるから」


それは最早食べるというよりは啜るなのでは…。そう、思った事をそのまま零したら、秒で戻って来たノートンくんにがし!と顔を固定されて文字通りじゅるじゅるに涙を吸われた。怖過ぎて叫んだし、取り敢えず今は言われた通りに泣き止んでおこうと心に誓った。



20240515

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