第五人格

□くるり、ひっくり返して
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※微ヤンデレ



オルフィーは、あの見た目に反して凄く紳士的だし優しかった。わたしはサバイバーでオルフィーはハンターだったけど。どうしてだかわたしにはその鋭い爪先を向けて来ないので不思議に思う。気になって一度本人に聞いてみた事があった。


「オルフィーは、わたしの事捕まえたりしないの?」


ドキドキ。無言の間がヤケに緊張感を帯びていて、自然と心拍数が上がる。オルフィーは暫く黙った後、表情の読めない声色でポツリと答えた。


「…別に、サバイバー狩りに疲れただけだ」


そう言われてピンとくる。思い浮かぶのはパトリシアさんとかノートンくんとか、グプタくんとか。みんな救助が得意で心強い仲間たちだ。でも、ハンターサイドからしたら煩わしい事この上ないのだろう。


「確かに!最近スタン系のサバイバー増えてきたもんねぇ」


納得してうんうんと頷くけれど、それを見たオルフィーが何故かため息を吐くのでキョトンと首を傾げた。どうしたのか聞いても、いやと濁されてしまい謎に終わる。えー?絶対何かあるよその反応。しかし詰める前に、オルフィーがわたしの頬に出来た切り傷を見て、どうしたんだそれと指摘するのでえっ?となった。むむむオルフィーめ、上手く話を逸らしたな。


「これねー、この前ジョゼフにやられちゃって」


ジョゼフが攻撃を振った瞬間にわたしが振り向いたから、つい頬に刃の切っ先が当たってしまったらしい。ジョゼフも顔に傷をつけるつもりは無かったらしく、頬から溢れる血を見てワタワタと慌てていた。ざっく!と切り付けられて、あの時はビックリしたなぁ…。オルフィーはマジマジわたしの頬についた傷を見つめると、おもむろに手を伸ばしてすっと爪の先で触れてくるのでビクリとする。少しだけこそばゆい。


「ふふ、擽ったいよオルフィー」


あ、そう言えばジョゼフったら可笑しくてね。怪我させたお詫びに何でもわたしの言う事聞くし、傷が残ったら責任取って結婚するって言い始める始末で、ほんと驚いちゃって。何もそこまで重く受け止めなくても良いのにねぇと。わたしはラフに笑って何気なく話したつもりだったけど、オルフィーからしたらそんな事は無かったらしくて。ガラリ、と。突然空気が重たくなったのに気が付きパチクリと目を丸める。わたしの頬に触れたまま微塵たりとも動かなくなってしまったオルフィーを不審に思い、おずおずと名前を呼んだ。それでも、オルフィーは何かを思案するのに夢中で無反応を貫く。


「どうしたの…?」


不意に、オルフィーの綺麗な瞳がわたしの事を真っ直ぐに射抜いた。ついドキリとして身構える。固まって動けないでいると、突然オルフィーに押し倒されて視界が反転した。打ち付けた箇所が痛い。何よりも、オルフィーにこんな乱雑な扱いを受けるのは初めてで困惑してしまう。恐る恐るオルフィーの事を見上げると、ぼんやり淡く光る紫色に捕まって嫌な予感がした。そっとわたしの頬を撫でながら恐ろしいことを言う、そんなオルフィーにゾッとして背筋が凍りつく。


「……写真家よりも酷い傷を負わせれば、君は私のモノになるのだろうか」

「っ、!や、だ、」


ヤバいと判断した身体が、反射的に逃げようと後ずさるけど直ぐに身体を抑え込まれてしまい失敗に終わる。がっ、と、わたしの顎を掴む指先は意外と優しい力をしているのに。それ以上に恐怖が湧き上がって来るから堪らない。「やっ、やめ、おるふぃ、」ガクガクと震えるわたしをゆうるりと見下ろしながら、オルフィーがその自慢の鉤爪を勢いよく振り翳した。一瞬にして目の前が鮮やかな赤で染め上げられる。冷たかったと思ったら、次はドクドクと熱くなって、視界もボヤけ始めて。傷が深いのは見なくても分かった。オルフィーの爪って、こんなにも鋭くて痛かったんだね。知らなかった…。朦朧とし始める意識の中、オルフィーが至極愛おしそうにわたしの事を抱きかかえうっとりと囁く。


「好きだ、もう君を放さない」


本当は、わたしもオルフィーの事が好きだったのだと思う。わたしを特別扱いして、蝶よ花よといつも大切にしてくれるオルフィーの事が。わたしはきっと好きだった。でも、今わたしがオルフィーに覚えているのは間違いなく恐怖心で。目の前にいるのはもう、わたしの大好きなオルフィーじゃなくて、戸惑いからじんわりと涙が滲み始める。それでも、わたしの頭を撫でるオルフィーの手つきがやっぱり優しいから、わたしは好きが良く分からなくなるのだ。



20230322

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