第五人格

□あなたに感電死
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ルカくんがいる時くらいは優鬼してるけど、それ以外は問答無用で本来のゲームを楽しんでいるので私にも嫌いなサバイバーが結構いたりする。まずオフェンスでしょ、呪術師でしょ?あとは…


「くっ、!」


この、見た目は普通の女の子なのに、あらゆる手で私を羞恥の海に落とそうとするセクハラ娘が嫌いで嫌いでしょうがない。捲られたスカートを慌てて押さえつつ勢いよく振り向く。すばしっこいのか、攻撃をヒラリヒラリと躱されてしまうのが余計腹立たしかった。そして一瞬の隙をついて頭に何か小細工を仕掛けられる。ばっ!と勢いよく振り払うと、セクハラ娘が瞬時にわたしから間合いを取った。一体、何を…!嫌な予感しかしない中手で頭に触れると、何やらフワフワとして気持ちが良い。頭上なので自身の姿が良く見えず眉根を寄せると同時、セクハラ娘がじゃん、と鏡を見せて来たので自然と目がいった。そして驚愕した。


「なっ、何これーっ!?」


耳が生えてる!!猫の耳!!どうやら猫耳を生やして辱めようという作戦らしい。こんなの、ジョゼフさんみたいな男前や機械技師みたいな麗しきお嬢さんなら似合うだろうけど私にあって良い物ではないっ!私の驚きっぷりに満足したのか、セクハラ娘が手を叩いて喜ぶので取り敢えず怒りの攻撃を振り下ろす。見事にクリティカルヒットして痛いと涙目になっているけど無視してやった。簡単には取れない仕組みになっているのか、うーん、と唸りながら猫耳を引っ張るけど抜けない!そのままうーんうーんと無理に抜こうとして力を入れた時だ。バチっ、と何か嫌な音がして電気のような衝撃が全身に走り抜ける。目の前に青い火花が散ったのが見えた。


「あいたたたた!?」


ビリビリ、パチパチ。思わずクラっとしてその場にしゃがみ込む。帯電しているのか、まだ指先が痺れる様な感覚が残っているしピリリとした電気を纏っていた。この青い電気、もしかしてルカくんのだろうか…。セクハラ娘とルカくんがキャッキャウフフ2人して仲良く開発した装置なのかなと想像するとお腹の底がグツグツと煮えたぎってきてムッとなる。ちょっと、いやかなりジェラシーかもしれない…。怒りの矛先を猫耳に向けてもう一度ぐっ、と力を入れて引っこ抜くと、ビリビリとした電気が再び全身を駆け巡って目の前がチカチカと爆ぜた。っひいいいい、!いたい、いたい!


「しびれ、びれ…、」


ヘロヘロになりながらペタリと手の平を地面につけて項垂れる。うう、全然取れないよぉ…!どうしても電気の痛みに耐え切れなくて手の動きを止めてしまう…。カメラを構えるなりパシャパシャとシャッターを切ってくるセクハラ娘をきっ、と睨み付けて攻撃を振るうけどやっぱり避けられてしまうので歯痒かった。彼女の話によると一応ゲームが終われば自然と取れるらしい、ので…ならさっさと投降してしまおうと手元を弄ると「あぁ!」だなんて不満げな声が聞こえた。こんなゲームはさっさと離脱だ離脱!が、しかし…


「何で抜けないのぉ!?」


強制的にゲームを終わらせた後も猫耳の取れる気配が無いので、恐る恐る引っ張ってみるとやっぱり電流が流れてビリビリと痺れる。走り抜けた痛みに自然と目が潤んでじんわり涙が浮かんだ。話が違うんだけど、もしかしてこれって、


「っ、バグ!?」


嘘だよぉ、嘘だと言ってよぉ…。シクシク、ひっそり泣きながらも私はどうするべきかを考える。こうなったらルカくんの所に行くしかないかな。でもこの、猫耳をつけてまんまとセクハラ娘の罠にハマった姿を最愛の人に晒すの?無理なんですけど、恥ずかしすぎるんですけど。でもこのまま次のゲームを迎えるのはもっと無理。


「…」


コソコソ。荘園の廊下を挙動不審になりながら進んで行く。曲がり角で一旦足を止めてそっ、と覗き込んで、誰も居ないのを確認した時だった。ふと背後に人の気配を感じ取って大袈裟な程に飛び上がる。ビクビクしながら振り向くと、傭兵のナワーブくんが私の事を凝視していて心臓が止まるかと思った。ばっ!慌てて自身の脳天に生える猫耳を両手で押さえて隠すけどもう遅い。ナワーブくんの視線はバッチリ私の目よりも上を捉えていてひえとなる。じっ、実はかくかくしかじかで…


「他の皆には言わないでぇ!」


泣きっ面でそう懇願してみると、私の心情を理解してくれたらしいナワーブくんが苦笑いで頷いてくれたので本当に彼の優しさに涙が出るかと思った。ナワーブくんの両手を取ってありがと〜!!とブンブン上下に振る。で、この後どうするのかって?一応ルカくんの所に行ってみるつもりです…。ぐすん。鼻を啜りながら何処か遠い目をして冷笑を浮かべる。はぁ、嫌だな。ルカくん私の頭見てなんて言うかな。お間抜けさんだなって笑われてしまうかもしれない。いや、でも、ルカくんの笑顔が見れるなら寧ろありかも。ルカくんの笑った顔を思い出して自然と口の端が綻ぶ。正直、ルカくんは機械弄りしてる時の顔が一番生き生きとしていて楽しそうなので、私の事で笑ってくれた時は特に嬉しく感じるのだ。なんて、ポジティブ思考に甘んじてちょっとだけウキウキする私を傍目に、ナワーブくんはナワーブくんで何か考える素振りを見せて。自身の上着を脱ぐと私に被るよう差し出してくれたのでキョトンと目を丸めながら訊ねた。


「へ、良いの?」


ナワーブくんが頷いたのを確かめてから軽く羽織ってみる。少し小さいけど、フードを被れば多少は猫耳が目立たなくなりそうだ。これなら人目を気にせず廊下を歩けるかも!


「えへへ、ありがとう」


ナワーブくん、ゲームで会った時は大体厄介で苦手意識だったけど。結構優しい所あるんだ。次会えた時は優鬼してあげよ〜と思いながらいそいそルカくんの部屋まで向かう。ゲーム外でハンターに会うのが珍しいのか、その間すれ違う他サバイバーにジロジロと見られている気がして。最終的には小走りになりながらその勢いのままルカくんの部屋の扉を叩いた。ここで躊躇ったら多分また時間が掛かると思った。勢いは大事だと言い聞かせている間にも、ゆっくりとドアが開いて訝しげにルカくんが顔を出す。私を見て驚いた様な顔をするルカくん。ついに夜這いでもされたかと思ったって?やだなぁもうルカくんってば!つい照れて頬を染めながらルカくんの背中を叩いてはっと気がつく。今のはもっと、伏し目がちにルカくんを見つめて頬に触れながらそうだよハートとか言う所だった。ジョークでドキドキさせるチャンスだったかもしれないのに!!なんて今更ガーンと思っても遅い訳で。少し損をした気分になりながら、どうしたのか訊ねるルカくんに言葉を詰まらせつつ…実は、と口籠る。重たい手をやりおもむろにフードを取っ払うと、ルカくんの視線がしっかりと私の頭にある猫耳を捉えてバツが悪くなった。


「バグなのか、ゲームが終わっても取れなくて…」


気まずさから視線を泳がせて誤魔化しつつ、そっとルカくんの表情を盗み見る。笑顔なんて雰囲気は微塵も見られない。寧ろムス、っとした顔でそれは?と私の羽織るパーカーを指差すルカくん。


「ナワーブくんが気を利かせてくれて、貸してくれたの」


どう、似合う?と冗談混じりに聞くけど無視されてしまったので少しだけショボンとなる。まぁ、いつもの事か…。ほんのり寂しくなりながら、部屋の奥へと行ってしまったルカくんの後を追いかけた。そういえばルカくんのお部屋初めましてだから、ちょっと緊張しちゃうな。本当はもう少し観察したい所だけど、あまりキョロキョロするのも失礼かと思って我慢する。そこの椅子に腰掛けるよう促されてちょこんと座ると、私と向かい合うようにしてルカくんが立ってそっと猫耳に触れた。…何だか、疑似的に頭を撫でられてる気分になってちょっとドキドキしてしまう。ルカくんのもう片方の手が私の頬に触れて首の方へと滑り込んで来るのでふふ、と零しながら身を捩った。


「ごめん、ちょっと擽ったいかも」


あとドキドキしちゃうからその触り方は止めて欲しいな、なんて…と言いかけた所で、猫耳からカチ、と音がして目の前に青白い電気が爆ぜた。まさかの此処で感電!?「ふぎゅぎゅぎゅ、!?」もう何度目か分からないビリビリが頭から足先までを巡って激しく痺れるけど、直前までルカくんに触られていたからだろうか。それとも、予期せぬタイミングで不意打ち感電したからなのか。何だかさっきまでとは違って電流の止まった今でも心臓にドクドクと響いて余韻が残っていた。ふえ、まだ心臓の音速い。でも何だろう…さっきよりもあんまり痛くない、ような?電圧に慣れてきたのかな…。クラリと倒れそうになったのをルカくんに支えられつつ、何とか椅子の背もたれに捕まってグッタリと寄り掛かった。痛いよぉ痛いよぉと愚図る私に謝るルカくんはとても冷ややかな視線をしていて少しだけ怖くなる。ルカ、くん?何かいつもと雰囲気違う…。

何処となく危険を察知してソワソワ。肩を強張らせて縮こまると、再びルカくんの手が私の頬に伸びて強引に上を向かせた。必然と目が合って、ルカくんの瞳がマジマジ私の顔を覗き込む。頬に伸びてない方の手がまた猫耳に触れるので気が気でなく、さっきの事もあり自然と心拍数が上昇して背中に嫌な汗が滲んだ。どきどきどき。呼吸も若干乱れてきた頃だろうか。まるで吸い寄せられる様にルカくんの顔が近付いてきて、唇と唇が…触れた。


「…!?」


それと同時に再び電気が走ってバチバチと衝撃が走り抜ける。二重の意味で驚いて飛び退こうとするけれど、ルカくんにしっかり押さえ込まれてしまって全く身動きが取れない。ルカくんも一緒に感電している筈なのに、平然とキスを続けるから混乱してしまう。ルカくんの表情を伺いたい所だけど、青白い閃光が眩しくてよく見えない。ちゅ、ちゅ、と、ビックリするくらい柔らかい唇に犯されながらビクビクと跳ねる身体に力を入れた。電気を纏ったルカくんの右手が、とても優しい手付きで私の髪を撫でる。痛いような、気持ち良いような。何だか凄く変な感じだった。


「ぷは、」


やっと止まった…。未だにドキドキとする心臓を押さえながらげんなり脱力する。私の髪はもうボサボサのバサバサで、ナワーブくんに借りたパーカーも所々焦げて黒くなっているのでヒクリと表情が引き攣った。慌てて脱いでもう一度確かめる。やっぱりどう見ても黒焦げだ…。ひぇ、借り物なのにどうしよう!ヒッソリ慌てる私を傍目に、ルカくんがグイと私の事を引き寄せてまたキスを落とすので心臓が跳ねた。ぱさりと音を立てて、ナワーブくんのパーカーが床に落ちる。

どき、からのドキドキ、バクバク。今度は電流は流れて来なかった。なのにルカくんと触れてる所から感電したみたいにピリピリとして甘く痺れるから堪らない。っ、どうしよう、唇が触れてるだけなのに凄く気持ち良い、離れられない。


「…」


ゆっくりおもむろに距離を取ったルカくんが、伏し目がちに私の事を見やって手の甲で頬を撫ぜる。「…痛かったかい?」なんて、そんな優しい声色で問いかけて来るからズルい。彼の左手には抜け落ちた猫耳が握られていて、もう電流を浴びせられる事が無いと分かった瞬間何処か寂しくなってしまったので自分でも良く分からなかった。な、なんで、残念そうなの…。ルカくんを見上げると、視線が自然とルカくんの唇に向いていたのに気付いてはっとする。自分の気持ちを誤魔化すように、「そもそも何でキスしたの!?」と真っ赤になりながら訴えれば、ルカくんはしれっとした顔で好きだからかなと返した。すっ、え、え?赤面して固まる私を傍目に、ルカくんが「君を取られたくなかった」とボヤいて私を腕の中に閉じ込める。心拍数がまた速さを増して、心臓にビリビリと甘い電気が流れた。胸がキュウっ、と詰まって、やっぱりドキドキ苦しい。


「(あぁ、もう、私の心はずっと前からルカくんの物なのに)」


また罠にハマったらここへおいでと、髪を撫でられながら耳元でそう囁かれて瞬発的に赤面する。それは、罠に掛かったらまたルカくんにキスして貰えると捉えて良いのだろうかと。そこまで考えてブンブン頭を振って邪念を払う。


「もっ、もう掛からないもん!!」


必死になってそう言い張る私を、ルカくんははいはいと受け流しながら笑っていた。



20211018

12周年メモリク、法被さまよりルカくんに振り向いて欲しくて色々仕掛けるハンター夢主ちゃん

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