第五人格

□わたし、死んでも良いわ
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わたしはショタコンである。しかも重度の。可愛いショタを見つけてしまうとついじっと目で追いかけてしまうし、なんならお家に招いて愛でたい、育てたい。というのを実行して逮捕され掛けた事もある。誘拐だなんて人聞きが悪い。わたしはただ迷子になっていた男の子を保護してあわよくばそのままウチの子にしようとしただけなのに。という話をジャックにしたら、呆れた様にヘアアア、とため息を吐かれてしまい笑みを引き攣らせる。何もそんな反応しなくても。余談だけど、わたしとジャックはサバイバーとハンターという立場だけど仲が良いという奇妙な関係にある。

でもこの荘園は地獄よね。可愛い男の子が一人も居ない。丁度そんな事をボヤいていた頃だ。ロビーくんという天使がこの荘園に舞い降りて来たのは。初めてロビーくんを見た時、それはもう大歓喜で年甲斐も無くはしゃぎまくった。


「見て!みてみて!超絶可愛い天使がいるー!?」


ハンターだ!と逃げ腰だったのを一転、直様回れ右をして新ハンターロビーくんの元まで駆け寄る。仲間からはバカ!止まれと制止の声を受けたけれど、こっちは何ヶ月ぶりかのショタと遭遇ですよ!?止まれる訳がなかろう!!という事で、目を爛々と輝かせながら彼の元まで突っ走った。オフェンスのウィリアムくんじゃあるまいし、まさかサバイバーの女の子にタックルを決められるとは思っていなかったらしい。ぎょっとした様子で固まるロビーくんはわたしに大人しくハグされていた。咄嗟に出たらしい驚いた様な声がまたまた可愛らしい。


「このサイズ感!ちょっと高い声!そしてそのスキン!!」


良いねキミ良いショタだね!!最初はわたしの勢いに押されてか怯えていたロビーくんだけれど、それもエンカウントする回数を重ねていく毎に慣れて来たのか。ひと月も経てば当初の様に慌てふためく事も無くなったし遠慮なく武器を振るって来る様になった。む、むう、それはちょっといや大分残念。もう存分に抱き締める事が出来無くなってしまった…。

しかし完全にチャンスが無くなってしまったという訳でも無い。ファスチェを引いてしまったらロビーくんに抱き着きたいのを何とか我慢して、仲間の為にもチェイスを頑張るけれども。わたしが最後の一人になってしまえば何をしたって誰にも文句は言われないもんね!ロビーくんも勝ちが確定しているからか、それ以上の攻撃をして来る事は無かったし吊られる事も無かった。


「ロビーっくーん!!」


追われていた側から追う側へ。最後の一人になった途端身を翻して走り寄ると、ロビーくんは急ブレーキを掛けながら止まって反射的にわたしの事を受け止める。すうううう、思いっきりロビーくんの肩口に顔を埋めて息を吸うと、柔軟剤のいい匂いがした。はああああ、ロビーくん良い匂い。あと仄かに砂糖菓子の様な甘い香りも感じられる。あああああ、ホントいい匂い。なんて事を毎回の様にしているのだが、この前最後までわたしの行方を見ていた仲間にこの状況を見られてしまいドン引きされたのをふと思い出す。あの、見られてると思うと恥ずかしいし流石にそこまで引かれると傷付くので画面はそっ閉じして頂いて…。でも今は仲間の目を気にしている場合でも無い。


「ロビーくんロビーくんロビーくん、今週はもう会えないかと思ったよぉ!」


会える頻度にムラがある為今のうちにたっぷりロビーくんを補給しておく。まるで宥めるかの様に、ロビーくんがヨシヨシとわたしの後頭部を撫でるので萌え死ぬかと思った。ロビーくんが可愛い、可愛すぎてヤバい。ついでにわたしのボキャブラリーの数も少な過ぎてヤバい。ロビーくんの肩口に顔を埋めたままうりうりと頬擦りをすると、僅かにロビーくんの被り物がズレたので内心ヒヤッとした。しかし直ぐに、ロビーくんがゆっくり自身の手で位置を直したのでほっとため息。さすがにその事には深く触れられないもんね…。

ゆっくり徐に離れて距離を取る。ロビーくんがポケットに手を入れて何かを取り出すなり、それをしっかりとわたしに握らせるのでまた胸がキュンと軋む。見てみると可愛く包まれているキャンディだった。


「くれるの?」


こくりと小さく頷いたロビーくんにありがとうと笑って、わたしは早速キャンディの包みを開けて口の中へと押し込んだ。甘くて美味しい。へへへ、ロビーくんから貰ったキャンディ。幸せ。


「そうだ、お礼に今度わたしも、ロビーくんに何かプレゼントしてあげる」


何が良い?ニコニコそう訊ねると、ロビーくんはえっと小さく驚いた後少し考える素振りを見せて。うーん、うーんと唸っては、何か思い付いた様な声を上げるのでなになに?と首を傾げる。けれどお願いしにくい物なのか。ロビーくんが歯切れ悪く言葉を詰まらせるので、わたしは笑顔のまま続けた。


「なに?遠慮なく言って良いよ」


いいの…?と上目遣いにわたしを見上げるロビーくん。当たり前じゃないか!ロビーくんにはいつも癒して頂いてる訳ですし。


「うん!わたしのあげられる物ならなんでも、」


じゃあ僕、お姉ちゃんが欲しいな、と、わたしの言葉を遮るかの様にロビーくんが言う。


「……へ、」


ついポロリと口から間の抜けた声が出た。そしてロビーくんの言った言葉の意味を理解した途端ぶわっと感情が込み上げてきて赤面する。えっ、あ、え、わたし…?お姉ちゃんの心はもうとっくのとうにロビーくんの物なのですが。…はっ、もしかして心も身体も両方欲しい手に入れたいっていう意味なのえっ、うわ、何それヤバい、えっ、

もう頭の中は大パニックである。このままだと薄い本が出来上がってしまう。ロビーくんに押し倒されたり身体をまさぐられたり…つい妄想が膨らんで興奮が頂点に達した。オネショタは、実在します!!何だか頭がぐわんぐわんとして、鼻の奥の方から熱が溢れ出して来る。ぼたぼたと鼻血が垂れて来たのには自分が一番ビックリした。黙りこくってしまったわたしを心配そうに見つめていたロビーくんが、急にあたふたと慌てふためき大丈夫かと駆け寄って来る。ドクドクと溢れて来る鼻血を押さえながら、挙動不審にだ、大丈夫だよと頷いた。

取り敢えず、その日は大人しく帰してくれたロビーくん。わたしの頭の中ではずっとその時の事がグルグルと渦巻いていて、ろくに寝れない日が続いていた。


「あ、でも待って、」


興奮し過ぎて盲点だったけど、もしかすると欲しいのわたし自身じゃなくてわたしの頭かもしれない…。ふとそう思い立ってゾクリとした。頭のないロビーくん、もしかしたら、なんて。ちよっと不穏に思ってジャックに相談してみたら、寧ろそれ以外に何があるのかと問われ真顔で答える。


「え、わたしの身体」


ジャックがドン引きの眼差しでわたしを見て来るので堪らず声を上げて反論した。いや、いやいや、これだって十分あり得るでしょ!なんて、自分で言って虚しくなってきた。ともかく、次ロビーくんに会うまでまだ猶予はあるはずだ。それまでにどうするか考えよ〜、だとかお気楽な事を考えている内にその日は来てしまった。レスポンして暗号機まで走り出すなり、当たり前のように生えていた太い幹にギクリとする。ロビーくん、だ…。どうしよう。唾を呑んで一瞬焦るものの、いや最後の一人にならなければいいんだ!と思いつく。わたし天才だな!

だとか、そんな悠長な事を言ってられたのも束の間。進んでチェイスや救助を買って出たけど、ロビーくんは全然わたしを相手にしてくれないから焦った…。残るはわたしとナワーブくんのみ。既に一回吊られてしまったナワーブくんを救助して必死に肉壁を続ける。ナワーブくん、危なぁいっ!ナワーブくんを庇ってわたしがダウンした所で、ロビーくんはナワーブくんを追い掛ける事を止めなかった。まずい、このままでは最後の一人になってしまう。頑張ってナワーブくん、お願い!そう祈りを捧げた瞬間、ナワーブくんも攻撃を食らってしまいあぁと嘆く。わたしとは少し離れた所でダウンするナワーブくんに、涙目。あぁお願いだよ、わたしを一人にしないで、ナワーブくん、ねぇ、ナワーブくううううん!!

そんなわたしの思いも虚しく、空へと打ち上げられて行ってしまったナワーブくんに顔面蒼白。正に、絶望。ドクドクと心拍数が上がっていくのは、ロビーくんが近くにいるからだけでは無い。ロビーくんが斧を引きずりながら、頭を抱えて蹲るわたしの元まで歩み寄って来る。


「…ロビー、くん、」


いつもだったら、最後の一人になると満面の笑みで喜ぶわたし。と、呆れた様な様子でわたしに構ってくれるロビーくん。でもわたしが余りにも真っ青な顔でロビーくんを見上げているからか、ロビーくんも何処かしょぼんとした面持ちでわたしの事を見下ろしていた。ヤケにゆっくりとした動作で、ロビーくんが重たそうに斧を持ち上げる。ヤバい、首が飛ぶかもしれない。ロビーくんから視線を逸らせず、固唾を飲んだ。

お姉ちゃん。呼びながら、ロビーくんの小さな手がわたしの頬から顎へと滑り落ち、ゆっくりと撫ぜる。何処となく艶っぽい動作にドキドキしてしまう…。これからどうなってしまうのか。その先を想像してドキンと心臓が大きく跳ねた。天国と地獄の妄想を交互に重ねて、元々失血中というのもあり何だか頭がクラクラとしてきた。段々と呼吸も乱れて来る。そんなわたしを安心させる様に、ロビーくんがそっとわたしの頭を撫でながら言った。僕の物になるの、嫌?って…


「嫌じゃないです!」


自分でも驚く程の即答だった。でも良く考えてみて欲しい。こんな可愛いショタにお姉ちゃんが欲しいって、こんな可愛いショタに、「じゃあ僕の物になって」って…、そんなの返事は「はい喜んで!」に決まっているでしょう!


「…ん、」


と、その瞬間、不意に影が落ちて来てわたしの唇に柔らかい物が触れた。ロビーくんと、布越しの、キス…。もうこの際目的がわたしの頭でも良い、思わずそう思ってしまう程、わたしの脳は既にバカになっていた。あぁ、わたし、死んでも良いわ。



20210424

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