第五人格

□やっぱり私はドMなのかもしれない
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心臓がドキドキとする。ハンターさんが近くにいる。ついていない。そう、大きな岩裏に隠れて息を潜めていた所に、彼はひょっこりと現れて顔を覗き込んできた。


「ぎゃあああ!」


驚いて叫び声を上げたわたしにつられたらししい。彼、リッパーさんも身動ぎしながらわたしの事を凝視して、やぁだなんて挨拶を交わす。り、り、リッパー、さん…?まじまじと見つめて観察してみた彼は紛れもなくわたしの大好きなリッパーさん。いつもカッコいいリッパーさんだけど、今日のリッパーさんはいつにも増してオシャレさんでカッコよくて、わたしは手を振り返すので精一杯だった。先程ついてないとボヤいたそれを前言撤回したいと思う。見事にリッパーさんとファスチェを引けたわたし、ありがとう。最&高。


「その、いつもカッコいいけど今日は一段と、あぁ、えーと、…か、カッコよくて素敵な紳士ですね!」


顔を赤らめながらしどろもどろに。あわあわテンパるわたしの事を、リッパーさんはキョトンとした表情で見遣っていたけれど。後にありがとうと優しい声色で返事をしてくれたので、わたしの中でぶわっと勢いよく感情が芽吹いた。ぎゃ、「ぎゃあああ、」乙女にあるまじき濁った悲鳴だったけど、どうか許して欲しい。それ程今日のリッパーさんはカッコよくて罪だった。銀のテンタクル。夜空色をした背広に纏わり付くシルバーがとてもスタイリッシュでカッコいい。淡いピンクのパンツが似合う紳士なんて、きっとどこを探してもリッパーさんしかいないと思った。じっと見詰める事すらしんどくなって、わたしは両手で顔面を覆いながら膝から崩れ落ちてしまう。リッパーさんがオロオロと、困り顔でわたしの肩を軽く叩いた。はぁ、好き…


「あのね、リッパーさん。わたしリッパーさんにお願いがあるの」


取り敢えず深呼吸を繰り返して動悸も落ち着いて来た頃、わたしはおずおずと顔を上げリッパーさんの事を見つめた。一体どうしたのかと、柔らかく問い掛けてくれるリッパーさんに、思い切って己の願望をぶつける。


「わ、わたしの事、思い切り引き摺り回して下さいっ…!」


ぽぽぽぼん、って、リッパーさんの頭上で勢いよくハテナマークが浮かび上がるのが見えた気がした。いつも優しくしてくれるリッパーさん。ロッカーにこもって構ってちゃんをしていると、いつも優しく引っ張り出して姫抱きにしてくれるリッパーさん。正直それだけでもうわたしはメロメロで、心臓もドっキドキで、全部全部ドロドロに蕩けそうにはなるのだけれども。


「つい先日、見てしまったんです」


リッパーさんが他の女の子サバイバーを、ズリズリに引き摺りまくっている所を…。ぎくり。バツが悪いのか、リッパーさんはぎこちない手付きで頬を掻き、僅かに身動ぎをして固まる。いつもはベタベタに甘やかしてくれるリッパーさんがあんな…、あそこまで雑に女の子を扱うだなんて。わたしに嫌われる事を心配していたらしい。幻滅したかと、そう訊ねる彼の言葉にいいえ!と返して、わたしは勢いよく顔を上げた。


「寧ろわたし、ちょっと羨ましかったんです!あの時めちゃくちゃに引き摺られていた、彼女の事が」


普段のリッパーさんからは微塵も想像出来ない荒さと雑さ。こういうのをギャップと呼ぶのだろうか。普段のお姫様扱いしてくれるリッパーさんも勿論大好きだけど、わたしもリッパーさんに乱暴にされたい、ずりずりに引き摺り回されたいと、少なからずそう思ってしまったのである。別に痛いのが好きとかいう訳じゃないのに。わたしってMなのかな…と一瞬思い悩んだものの、これは相手がリッパーさんだからだと気付いて納得した。いつもゲートから逃してくれるリッパーさんだから。たまに、ボロボロになるまで傷付けられて吊られてしまいと思う事もある。そう、リッパーさんにならわたし、何されたっていい。寧ろされた事の無い未知の領域だから、興味があるし好奇心もあった。優しくされるだけじゃ足りない。他の女の子にしてる事全部、同じようにわたしにもしてよ。ちょっと狂気じみている気もするけれど。乱暴に扱われたいというのは、リッパーさんを独り占めしていたい嫉妬心からでもあった。


「お願い、わたしの事を引き摺り回して、リッパーさん」


とても、困った様な顔をしていた。落ち着いて考え直す様にわたしの事を諭すリッパーさんの声は相変わらず柔らかかったし、わたしの頭を撫でて宥めるその手つきはとても優しい物だった。そんな事は出来ない、したくない、あの時はあのサバイバーが拾ってきた銃を撃ち攻撃して来たから仕方なく、軽い仕置きの気持ちだったと述べるリッパーさんに、わたしもしょんぼり眉を下げて項垂れた。


「じゃあ、わたしも銃を使ってリッパーさんの事を撃てば、同じ様にお仕置きしてくれる…?」

「…、」


困らせている。そんなの、分かってるけどさ。


「それでもリッパーさんに、酷い事されてみたかったんです…」


俯いて黙り込んでしまうと、それを見兼ねたリッパーさんが浅く息をついてわたしの事を呼んだ。彼のすらっとした指先がわたしの顎を捉え、くい、と軽く持ち上げる。本当に?後悔はしないかと、そう訊ねるリッパーさんに目を潤ませながら頷いた。


「もちろん!だって大好きなんだもん」


そう答えると、リッパーさんはクツクツと喉の奥で笑って。いつもの様に優しくわたしの事を抱き上げた。ふわりふわり。身体が浮く。ひらりひらり、彼の所持している薔薇から真っ赤な花弁が舞い落ちていく。引き摺る気なんて、毛頭も無い様に感じられたけどわざと大人しくしていた。


「リッパーさん…?」


どこへ行くの?動く景色に何となく場所の察しはついたものの、敢えてそう訊ねてみる。けれど返事は返って来なかった。わたしを抱きかかえたまま小屋へ入り、そのまま階段を下ると地下へ潜るリッパーさん。「…何を、するの?」不安げな声色で質問を零す。今度は返事が返ってきた。酷い事をされたいのだろう?と、不適に笑ってみせたリッパーさんの笑い声に、身体の奥がビリリと痺れて甘く疼く。

この先の展開を想像して、赤面。地下室の硬い床へと下ろされては、そのまま優しく押し倒された。ドキドキ、弾む心臓の音が煩い。僅かに残った理性で拒んでみようとすると、リッパーさんに纏わり付くシルバーがドロリと溶けてわたしの顔や胸元へと落ちた。そのまま、まるで張り巡らせられた触手の様に。絡み付いて離れないそれにドキドキが増す。シルバーのそれはひんやりとしていて冷たいハズなのに、それと比例して身体はどんどん熱く火照っていく感じがした。


「私の事を困らせた罰だ。たっぷりとお仕置きしてあげよう」


いつも優しくて、デロデロにわたしの事を甘やかして、わたしの嫌がる事なんて絶対にしないリッパーさん。「いや、やめて」なんて、言葉だけで嫌がってみるもののきっとリッパーさんにはバレバレで。少し乱暴な手付きでわたしの衣服をひん剥いていくリッパーさんに、心音と身体の熱が増していく気がした。



20200605

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