第五人格

□シリウスの輝きに惚れました
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エミリーの見解によると、イライくんは私の事を好いているらしい…。最初はいやいやいやそんな訳…と謙遜して考えないようにしていたのだけれど、一緒にゲームに出ている内にそんな否定も出来なくなってきた。そういえばイライくんっていつも終盤になると私の隣に来て一緒に解読してくれるし、危ない時はしょっ中梟飛ばして私のこと守ってくれるし、怪我を負えば直ぐにでも駆け付けて治療してくれるっけというのを思い返してフツフツと顔に熱が集まる。あれは全部偶然だと思っていたけど、本当は私に会いたくて探し回ってくれてたのかな…。そう思うと胸の奥がムズムズと擽ったくなって堪らなくなる。

他にも、トンネル回避の為に私の救助の後は自身がダウンするまで身体を張って肉壁してくれるし、そのままヘイトを変わってくれる事だってザラ…どこかで見た事のある光景に、私は口角が引き攣るのを感じながら項垂れた。私がエミリーにするのとおんなじ…!ここまで来ると認めざるを得ない。イライくんは、私の事が、好き…?そんなバカな。だって私イライくんに好かれるような事してない。寧ろ、傷を治して貰った後はありがとう!の一言で終わりだし、じゃあ私エミリーと合流する為にあっちへ向かうねで即バイバイという仕打ち…。もし本当にイライくんが私を好きだとしたら、私イライくんにすっごく可哀想な事してるよね!?


「…はぁ」


あれから私はすっかりイライくんの事を意識してしまって。面と向かって彼の顔を見る事すら出来なくなってしまった。悟られないようにヒッソリこっそり避けてみたりもしたけど、それでは何の解決にもならない事に気が付いてまたすぐに頭を抱える事になる。しかも、偶然食堂で会った時のあのイライくんの顔。最近会わないけど、元気にしていたかと私の体調を気にするイライくんの表情はとても優しげで、とても嬉しそうで。自惚れだと思っていたけど、確かにその愛しむようで柔らかい視線は、好きな人に向ける物だよなぁと分かってしまって。そんなイライくんを意図的に避けていた自分にがっつりと良心を抉られた気がした。だって、私がエミリーに同じ事されたらきっとショックだし何で避けるの!?ってしつこく付きまとっちゃうと思う。…なのにイライくんは不審がる事も無く、寧ろ久しぶりに出会えた事を素直に嬉しく思える程健気な人で…イライくんは、偉いなぁ。


「…うん。元気だったよ」


少し間を空けてからそう返せば、イライくんは直ぐにホッとした様子で良かったと口元を綻ばせた。そうして他愛のない会話を織り交ぜながら、良ければ一緒にゲームへ参加しないかと誘われてほんの少し考え込む。勿論、エミリー先生も誘って。そう付け加えたイライくんはさすが、私の事を分かっていらっしゃる。勝手に気まずくなっているのも忘れて、私はすぐに二つ返事でオーケーを出した。我ながら現金だなとは思う…。エミリーが行くなら。そう言う私にイライくんも柔らかく微笑んで、近くにいたエミリーの事を呼ぶ。イライくんはエミリーが一緒でもいいのかな。私だったら好きな人と二人きりがいいと思っちゃうけど。不思議に思ってついイライくんを見つめ過ぎてしまうとバッチリ視線が合ってしまったのにドギマギとなる。ぎこちなくなりながら、私の方から慌てて逸らした。イライくんはキョトンとしながらもわたしの横顔を見据え続けていて、その視線に少し恥ずかしくなった私は誤魔化すようにエミリーの腕を引いた。


「行こう!エミリー、イライくん」







そうして始まった今回のゲーム。ファーストチェイスを引いたのがエミリーでつい序盤からソワソワしてしまう。エミリー、大丈夫かな。場所も多分弱ポジだし、心配…。そんな私の不安は的中してしまい、ダウンを取られたエミリーにばっと勢いよく顔を上げて走り出した。エミリーが吊られた時は大体エミリーバカな私が一番に救助へ行く。これは最早、暗黙の了解なのだけれど。解読中止、助けに行く!そう発言したのはイライくんで、実際私よりもエミリーに近い位置にいたのもイライくんで…。私は急遽足を止めて、エミリーの元まで走るイライくんへと視線を定めた。たまたま、私よりもイライくんが救助へ行く方が効率が良かっただけ。そう言い聞かせつつ、私は後ろ髪引かれる思いで暗号解読の続きに着手する。

イライくんが無傷でエミリーを救助したのが遠目でも伺えた。肉壁もバッチリ。そして、梟をつけてアフターケアという徹底ぶりにほんの少しだけ驚いた。なんだ、他の人にもそうやって、肉壁するし梟付けてあげるんじゃない。


「(…私にだけじゃなかった)」


自分の身を呈して仲間を守るのは、素晴らしい事なのに。そこまでするイライくんにチクチクと胸が痛んだ気がした。言葉に出来ないモヤモヤが脳内で充満して悶々とする。そっか、イライくんは優しいから。別に私だから肉壁をして梟をつけてくれていた訳じゃない。誰に対しても、きっとそうなんだろうなぁと思った。イライくんが私を好き?そんな事ないよ。結局それはただの自意識過剰で、エミリーの言葉を鵜呑みにした私が勝手に思い込んで勝手にモヤモヤしているだけ。


「(…あぁ、なんだかイライラする)」


どうしてそんな感情に苛まれているのか、私自身よく分からなくて。暗号機の調整ミスを連発してしまったのが余計に腹立たしかった。感電したのは指先の筈なのに。変なの、胸が軋んで痛い…。


「(…変なの)」


執拗以上にエミリーの肉壁を続けるイライくんを遠目で見据えながら、私は小さく下唇を噛んだ。結果的に言うとその試合はエミリーが飛ばされてしまったけれど、3人逃げられたのでチーム的には勝利を得た。それでも気分はモヤモヤと晴れなくて、私は露骨にブスっとした表情でロビーの扉を開ける。そんな私を見たエミリーが、何怒ってるのよと声を掛けて私を引き止めた。機嫌が悪いのは側から見ても一目瞭然なんだと思う。エミリーが眉を下げながら私の顔色を伺った。


「…別に」


素っ気なくそう返して、ふいっと顔を背けてしまう。エミリーが苦笑いを浮かべてトンと私の額を突っついた。その仕草ですら、使い鳥を指で詰るイライくんを連想させて益々ムスっとしてしまう。


「もう、止めてよ。私暫くイライくんの事考えたくない」


前回の演繹で私がイライくんをライバル視していた事を思い出したのか。また始まったと、エミリーが肩を竦めて呆れた素ぶりを見せる。だってイライくん見てるとイライラしちゃうんだもん。イライラ・クラークだよイライラ・クラーク。私以外の人にもあんなに粘着して守ってるんだね、素晴らしい事だよ。そう思うのに。どうして私はこんなに腹立たしく感じているのか。自分で自分の感情が分からなかった。唯一分かるのは、こんなのイライくんに当たり散らしているだけだという事。違う、イライくんは何も悪くない、分かってるけど。これじゃあこの間の演繹の星コンテストの時とおんなじだ…。情緒不安定なのかなぁと落ち込んでつい溜息を零してしまう。そんな私を見て、エミリーがピンと来たような顔をしながらもしかしてと呟いた。ただ黙ってエミリーの次の言葉を待つ。…妬いてるの?と、そんな爆弾発言を投下していったエミリーに、私はばっ!と勢い良く顔を向けて即座に否定してみせた。


「なっ、違うよ!妬いてなんかない!」


別にイライくんが誰を庇おうが誰を守ろうが私には関係ないもん!そう意地を張る私にエミリーはクスクスと笑って。あら、私はてっきり、私を守る役目を彼に取られたから怒ってる物だとばかり、と楽しそうに言うのでハッとなる。ぼ、墓穴掘ったっ!確かに、いつもの私だったらそれで機嫌が悪くなってる。エミリーを守るのは私なのに!ってなってたと思う…これじゃあ本当に、私がイライくんに助けられてたエミリーにヤキモチを妬いてるみたいじゃないかと。私は一気に顔が熱くなるのを感じてバツが悪くなった。


「も〜っ、そんなニヤニヤした顔で私を見ないで!そもそもイライくんを意識しちゃってるのはエミリーの所為なんだからね!?」


エミリーがあんな事言うから、私は無駄にイライくんを意識して過剰になって…。ついついそういう目でイライくんの事を見てしまったのだ。その結果がコレって、勘違いも甚だしい。


「…エミリーが思ってる程、イライくんは私の事好きじゃないよ」


なのに一々イライくんの行動に振り回されたりして、バカみたいだ…。そう声のトーンを落とす私とは裏腹に、エミリーはそんな事ないわよと頑なにイライくんは私を好き説を推してくるので解せない。一体何を根拠にそんな…。不審に思う私に、エミリーはねぇ?と小首を傾げてみせたので私も首を傾げ返す。


「ねぇ、って言われても…」


けれど、微妙にエミリーと視線が合っていない事に気が付いて。私は反射的にクルリと後ろを振り返った。そして驚愕した。


「っな…、」


い、イライ、くん…!途端に心拍数が上がり出す。微妙な空気の中、きっとイライくんは否定するだろうと思った。告白しても無いのに私はエミリーの前で振られてしまうのか…そんな惨めな展開を想像していた。だけど、イライくんは頬を僅かに染めながら困ったように頭へ手をやって、コクリと小さく頷くので目を大きく見開く。


「な、何で肯定、しちゃうの…」


どぎまぎ、ぎこちなく視線を落としながらつい俯いてしまうと、イライくんが本当の事を偽ってどうするんだと苦笑いするので余計に顔が熱くなった。う、嘘だよ、私イライくんに好かれる様な事してない。さっきだって私じゃなくて執拗にエミリーに粘着して守って。寧ろ好きなのは私じゃなくてエミリーの方なんじゃないの…そう淡々と本音をぶつけて口籠ると、イライくんは不思議そうにしながらコテンと首を傾げてみせる。エミリー先生を守ったのは、彼女が君の大切な人だから…と、イライくんがそう言ったのに心臓がドキリと反応した。


「え…?」


思わず顔を上げてイライくんの方を見やる。結局守りきれなかったけれど、なんて、眉尻を垂らしながら謝るイライくん。私だけじゃなくて、私の大切に思う人まで守ってくれようするイライくんの優しさが身に染みて胸の奥がキュンとなった。なに、それ、ズルい。包み隠さず私の事を好きだと認めちゃうのも、結局は全て私の事を思っての行動だというのも…ズルいよ。そんなの、私だってイライくんの事、好きになっちゃう、


顔を赤くしながらすっかり黙り込んでしまった私を前に、イライくんは淡く微笑みながら懐かしむようにして言葉を発した。エミリー大好きで一途に追い掛けている私を見ているのが面白くて、最初は目で追い掛けているだけだったとイライくんは語る。傍目から見ても分かるくらい仲良しなんだなぁ、と。そうして傍観している内に私の事が気になり出し、気がつくと恋に落ちていた。そんな事を言うイライくんに堪らなく恥ずかしくなって、私はソロソロと視線を下げながらまたもや俯く。今顔を上げたら、間違いなくイライくんと目が合ってしまうと思った。ダメだ、どんな顔をしたらいいのか分からないしイライくんを直視出来ない…!エミリーは相変わらず静かにしながら、私とイライくんの行く末を見届けてあらあらだなんて楽しそうに笑っているし…。


「あ、の、…私、は、」


電池切れのロボット宜しく、途切れ途切れに言葉を発してぎこちないままでいると、イライくんが苦笑いを浮かべながら返事は大丈夫だと首を横へ振った。私の一番を独占しているのはエミリーだからと、イライくんはとことん私の気持ちをきちんと優先してくれる。とても素敵な人…。こんなの初めてで、胸がずっとドキドキとしていた。エミリーといる時ですら、こんなに胸がときめいた事はなかったのに。じゃあ、と、手を振って行ってしまったイライくんを見据えたまま、私はすっかり放心してしまって。暫くはそのまま動けずにいた。


「イライくんって、すっごく落ち着いてるっていうか…」


冷静なんだねぇ…凄いなぁ。私ばっかりドキドキしてるみたい。そう、茫然としながらついポロリと言葉を落としてしまうと、堪らずといったようにエミリーが小さく吹き出したのでキョトンとなる。


「…?なに笑ってるの?」


エミリーには何でもないと躱されてしまって。えー気になると詰め寄ってみた所で教えてはくれないので煮え切らない。その内教えてあげるわ。なんて、その時のエミリーの優しそうな表情と来たら。


「えー?うーん…そっかぁ」


渋々、その時は大人しく身を引いたけれど。貴女に好きバレしてしまったと知った時の彼、顔を真っ赤にしながらベッドでジタバタしていたのよと。そうエミリーの口から真実を聞いたのは、私とイライくんが正式にお付き合いを始めてから暫く経った、ある日の事だった。その話は内緒だって約束したじゃないですか!と珍しく顔を赤くするイライくんに、愛しさが募ったのは言うまでもない。



20190921

10才誕生日企画リク、雪野さまより演繹の星ネタ詰め合わせであるイライくんパートの後日談、意識しちゃう夢主ちゃんと気持ちがバレて気恥ずかしくなるイライくん

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