〈長編夢小説〉幸せ
□第五章
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それから俺は、あいつの部屋に朝一で行くことはなくなった。
始めのうちは朝起きてから手持ち無沙汰な感じがしていたが、山積みの仕事をこなしているうちに、その感覚もなくなった。
そして今日も俺は、仕事の報告のために近藤さんの部屋にきている。
一通り報告が済んだ後、近藤さんがあいつの話を持ち出してきた。
「そういやトシ、名無しさんさんとはどんな感じだ?」
「別に、何も変わったことはねぇが。」
「そうか。」
近藤さんは一瞬間をおいて、
「いやなぁ、そろそろ名無しさんさんの仕事の幅を広げてあげたらどうだろうと思ってな?」
「あ?」
「いや、名無しさんさんももうだいぶ屯所に慣れてきただろ。
隊士たちも名無しさんさんがいることに違和感を感じなくなってきているし。」
「まぁ確かにそうだが・・・」
「だからな、例えば、お前の部屋の片づけをしてもらったり、寝支度をしてもらったり。
そうだ、夜食なんかも作ってもらうといいんじゃねぇか?」
「それ、完全に俺の世話役みたいになってんじゃねぇか。」
「いや、名無しさんさんも喜ぶと思うがねぇ。それにトシの手伝い係なわけだろう?
まぁでも、そこはお前に任せるさ。あ、そうだ。それともう一つ・・・」
――――――
「おい、名無しさん、出かけるぞ。」
一通りの掃除が終わったころ、土方さんがそう言ってきた。
「へ?」
「へ?じゃねぇ。三十分後に迎えに行くから、部屋で支度して待ってろ。」
そう言うと土方さんは自分の部屋へ行ってしまった。
この世界にきて一か月以上は過ぎただろうか。初めての外出だ。
どういう風の吹き回しか分からないけど、わくわくする。
私は早速部屋に戻って準備を始めた。
「一応お財布持っていこう、使えないかもしれないけど・・・。」
こんな感じで準備をしていたら、
「おい、行くぞ。」
隊服ではなく、緩く着物を着こなした土方さんが迎えに来た。
「はい!」
そうして私は土方さんと屯所を出た。