〈長編夢小説〉幸せ
□第四章
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さぁ、今度こそ目を開けよう。
きっといつもの私の部屋だよ、ここ。
って、こんなこと言い聞かせてる時点で、昨日までの記憶が残っているのは明らかだ。
でもそんな事実を無視しながら、目を開けるか開けないかずっとぐるぐる悩んでいる。
「おい、起きてるか。開けるぞ。」
終わった。
やっぱり戻ってない・・・。
しかも自分で目を開ける前に
あの人の声で起きるってもうほんと最悪・・・。
というかまだ時間だいぶ早くない?
「おい、まだ寝てんのか?もう七時だぞ!!」
イライラしている様子が声で分かる。
まだ七時じゃん!
というか、時間は私がいた世界と同じ・・?
「おかげさまで今目が覚めました。」
髪の毛を結びながらそう言うと、彼はまたも唐突に障子を開けた。
「ちょっ、開けるの早くないですか・・・?
今目が覚めたって・・・!」
「うるせぇ、せっかく人が気を利かせて来てやってんのになんだその態度は。」
「いや、そんな起きてすぐの顔なんか見られたくないですよ、恥ずかしい・・・!」
「あ?どうでもいいんだよそんなこたぁ。それより早く着替えるぞ。
どうせお前まだ一人じゃ着れねぇだろ。」
あ、わざわざそのために・・・
「あ、ありがとう、ございます・・・」
「わかればいいんだよ。ほら、早く立て。」
総悟君が寝る時用に買ってきてくれたゆかた?はそんなに難しくなくて、それに寝るだけだからよかったけど、着物になるとまた違う。
素直に頼むしかない。
「おまえ、ここ自分でやってみろ。」
ぼうっとしていた私に、土方さんは突然言ってきた。
「え・・・」
「え。じゃねぇよ。早く自分でできるようになってもらわねぇと、俺だって毎日来るのはごめんだ。」
「そうですよね」
私だってこの人に毎朝寝起きの顔を見られるのはごめんだ。
昨日の記憶を頼りにやってみるが・・・
「ちげぇよ、ここはこうすんだよ。」
そう言うと彼は私の手を掴んできた。
「なっ・・・!」
思わず手を振り払ってしまった。
「なんだよ。ほら、早くしろ。こちとら暇じゃねぇんだ。」
彼は無理やり着付けの続きを始めた。
この人なんとも思ってないの?
無意識?
さすがにびっくりするじゃない!
その後も、ところどころ私がやりながら、何とか着付けが終わった。
「不器用か、お前は。」
「はい、不器用です。」
「いや、ちょっとは否定しろよ。」
そう言うと、彼はふっ、と笑った。
どきっ・・・。
って、何、今のどきっ、って!
ちょっと顔が良いからって、油断しすぎ私!
でも、会ってから笑った顔を見たの初めてだ。
「じゃあな、飯は多分総悟あたりが持ってくらぁ。」
そう言うと部屋を出て行こうとする。
「あ、ありがとうございました・・・!」
彼は左手をズボンのポケットに入れ、右手を挙げながら、部屋を出て行った。
――――――
「あ、取り調べのことあいつに言うの忘れちまった。」
そう思って引き返そうかと思った時だった。
「あれ、土方さんじゃぁねぇですかい。残念だなぁ、今は名無しさんさんの朝飯持ってるから、バズーカぶっ放せねぇや。命拾いしましたねぃ。」
「ふざけんな。朝からそんなことしか考えてねぇのかてめぇ。」
朝食を持ってきた総悟と会った。
「てか土方さん、あんた今名無しさんさんの部屋から出てきましたかい?」
「あぁ?別にどっちでもいいだろ。」
見てたのか。まぁ、別にいいか。
「ふーん。」
なんでニヤニヤやしてやがる、こいつ。
「ま、いいでさぁ。」
「ったく、なんなんだよてめぇは。それより総悟、名無しさんに取り調べのこと伝えといてくれ。」
「はいはい、わかりやした。」
そう言うと、総悟は名無しさんの部屋のほうへ向かった。