〈長編夢小説〉幸せ
□プロローグ
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「あっつ・・・」
ここ最近ほんとに暑い日が続いている。
「ほんとあっつい。名無しさん、どうにかしてよぉ。」
「そんな無理だよ、優子。」
大学の授業を終えて私と友達の優子は最寄り駅までの道を歩いている。
大学から歩いて七分。
どうも微妙な距離だ。
ちょうどめんどくさい距離。
「名無しさん〜、アイス買わない?」
「いいね、買おうか。」
こんな感じで三日に一回は途中のコンビニでアイスを買う。
「もうさー、大学の講義はつまんないし、大学生なのになかなか部活はきついし、いい男はいないし。
何なのかねーほんとに。」
「うん。ほんとにね・・・」
男、に関しては私にはまだよくわからないが、優子の言う通り、同じような毎日の繰り返しで、たまに遊んだり飲みに行ったりするくらいで。
つまんない講義、の中に厳しい抗議もあったりして、なかなかうまくいかなくて。
それが最近の私の悩みの種だったりする。
「あー、やっと着くよ〜」
この横断歩道を渡り切ったらもう駅はすぐそこだ。
『なんか、面白いことでも起きないかなぁ。』
二人同時に言った。
「名無しさん、どうする?走る?」
「んー、良いよ待つ。走ると汗かいちゃうし。」
横断歩道の青信号はもうチカチカしている。
「ねぇ、名無しさん、」
「ん?」
「あの子・・・、渡り切れるよね?」
優子の視線を追うと、こちらに向かって三輪車を漕いでいる男の子が見えた。
「大丈夫じゃない?多少遅れても運転手気付くよ。」
その時。三輪車に乗っていた男の子が転んでしまった。
「名無しさん、どうし・・・!」
優子の言葉は聞こえていたが、体が先に反応した。
私は男の子に駆け寄り、抱きかかえ、優子のほうにちょうど駆けだした時だった。
パァァァァ―――――!
盛大なクラクションが鳴り、勢いよく右折してきた車が私のほうに向かってきているのが見えた。
反射的に私は男の子をかばうように車に背を向けた。
フワッと体が浮くような感覚がした。
「・・・あぁ、私死んじゃったのか。
どうかあの男の子は助かっていますように。
私は?いいや、特に何かのために生きる、という気持ちもないし。
むしろいないほうが学費とかもかからなくて親孝行だよね。
せめて天国には行きたいな。」
のんきにそんなことを考えながら、いかにも夏、というような真っ青な空を見ていた。そして、スッ、と意識が消えた。