太田夢莉サイド

卒業されてから、もう一週間。
いつもセンターで、誰よりも美しく、明るく輝いて、まぶしくて…それでいて優しさに満ちていた光。

貴女が居なくなってから、更にその存在の大きさがよくわかる。


情けないね。
私含めみんなもっと早く気付くべきでした。
いつかは来ると知りながら、貴女に甘えて居たんです。

いつでも健気なあなたに……


大丈夫やで
そんなことないよ
頑張りや


あなたはきっと、そう言うでしょう。


今日も自分なりに出来ることを、やれるだけやってきた。


高校を出てからは、この仕事をする上で面倒な規制がなくなって、深夜までの仕事も少なくない。

夢「はぁ…。」

最寄駅から歩く道のり。
イヤフォンをして、スマホからランダムに流れる曲に耳を傾ける。
思わずため息をつくと、白く吐かれた吐息。

なんでこのタイミングで雪恋なの。

また思い出す。
あなたのいたNMB、NMBにいた…彩さん。
山本彩サイド



ギターの音と、私の鼻歌。
それだけの空間が、やけに寂しいのは…。




それなりに連絡をくれたりするメンバーはいる。
ありがたいことに、卒業してからも
「今度1期でご飯行こな!」
「さやか氏!あのBLの新刊出ましたぞ!」
「こじりん頑張ってんで!」

と、今までとまるで変わらない接し方に嬉しくなる。
あぁ、思ってたより不安とか、寂しさが大きいんやなって、今になって気付く。


ピコンッ


「今終わったよ。」


ある人からのラインで我に帰る。

もう深夜なんや。

仕事柄、昼夜逆転なんて当たり前な生活をしていたからか、感覚がおかしい。


朝普通に送り出してからそんな経つんや。
急いでお風呂の準備をする。

今までは逆やったな。




そこで寝たら疲れ取れませんよ
体冷えちゃいますよ
お風呂入って来てください
髪乾かさないと風邪ひきますよ



わかってはいるから、力を振り絞って返事はしていたはず。

それでも気づくとベッドの上。
隣にはあんたがいた。


わざわざ運んでくれたんやーって、顔を見ているとフッと目を開けて、ん?って顔をする。

なんでもないと首を振ると、もぞもぞして、片腕は私の頭の下、片腕は腰に回されてぎゅっと引き寄せられる。

どこで覚えて来るんよって程、優しく抱きしめて包んでくれる。


朝…ちょっと早めに起きて…お風呂…

眠いのか、ボソボソと話して来る。


わかっとるよ。
ちゃんと入る。
そう言えば頭をポンポンして、また抱きしめてくれた。





なぁ、正直な
不安やったんよ。
卒業することを打ち明けてからずっと。

これからの二人の関係がどうなるんか。

このままでおれる?
それとも…離れてまう?って。


もちろん私から離す気は無かった。
それでもどう思ってるんか、聞いた。


もし、彩さんのお邪魔じゃなければ…



嬉しかった。
ほんまに。
太田夢莉サイド


まだ少し慣れない手つきで、番号を押す。
慣れない手つきで、エレベーターを呼ぶ。


なんだろう。
慣れなくて、まだぎこちなくて、普通なら不慣れなことって敬遠するはずなのに、足取りが軽くなる。
あと何歩?
何歩歩けばあなたの元へ行ける?


やっと見えた扉。
きんじょめいわくにならないよう、ゆっくり開けて、閉める。


おかえり、ゆーり


外は肌寒かった。

でもほんの一瞬で、体が暖かく、心が安らいだ。







ただいま、彩。

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