貴方の隣(長編)

□日常から非日常へ
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歩き始めて数分後、小夜は不思議な井戸を見つけた。
そのすぐ横には、傷の入った大きな木が立っている。


先程自分が見て触ったあの御神木と、どこか似ている木だった。


「…やっぱり似てる。でも…この木じゃない…。品種が同じなのかな…?」


自分があの時見た木と似てはいるが、少しだけ違う。
こんなに傷はなかったし井戸もなかったのでそれは確かだろう。


「……なんかこの井戸も…怖い感じ…。お化け出てきそう…」


小夜はそーっと井戸の中を覗いた。


特に何もないが、やはり不気味だった。


「うへぇ……、気味悪い…」


「これ、何をしておる?」


後ろから声を掛けられ、小夜は「ひいっ!!?」と身体が過剰に反応した。


「おや、驚かしてしまったか?」


声を掛けてきたのは、巫女のような装束を着た老婆だった。


明らかに人間であることに、小夜は胸を撫で下ろした。


「あ、いえ…すみません。妖怪みたいなのばっかに出会してて、初めて人に会えたものですからつい…」


「そうか。妖怪に会って避難してきたのか?」


「それもありますけど…森を抜け出さなきゃと思って歩いてました」


「ほぅ…」


老婆は小夜を改めて眺め、軽く首を傾げる。


「お主、よく見るとかごめの格好に似とるのぅ?もしやかごめと顔見知りか?」


老婆の発言に、今度は小夜が首を傾げる。


「かごめ?いえ…、知らないです。でも、私と似たような格好の人がいるんですか?」


「うむ、ワシの知る娘もお主のような格好をしておる」


自分と似たような人間がいる。


当たり前の筈なのに、何故かそれを嬉しく思った。


「立ち話もなんじゃな、ひとまずワシの村に来るか?」


「えっ…?」


「そう構えるでない。取って喰いやせん。森を抜けたいならば、ちょうどよかろうと思ってな。興味があるならワシの知るその娘とも話してみるとよいぞ」


どうしようと一瞬迷ったが、この人は悪い人ではないであろうと感じたのでついていきますと答える小夜。
何よりこの人が知るその『かごめ』という人間に会ってみたかったのだ。


「ふむ、お主の名はなんという?ワシは楓。麓の村の巫女じゃ」


「松野小夜です。やっぱり巫女様だったんですね?雰囲気それっぽかったからそうじゃないかとは思いました」


「大した力は持っておらんがな。さて、行くか」


小夜は巫女の楓と共に歩き出す。



ーこの出会いが、全ての始まりになるとも知らずにー




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