貴方の隣(長編)

□日常から非日常へ
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後ろ姿だが、声質からして男性であるとすぐに分かった。


青年がそのまま立ち去ろうとしたので、小夜は「待って!」と呼び止めた。


ゆっくり振り向いた青年。


その瞳は、凍てつくような冷たい目だった。


「あ、あの…、助けてくれて…ありがとうございます…」


小夜が恐る恐る感謝を口にすると青年は…


「…勘違いするな。人間など助ける意味はない」


と冷たく言い放つ。


姿は人間のようだが、萎縮してしまうような空気を纏う青年。
先程の妖怪は、青年の攻撃を受け既に肉体は溶けて形を無くしていた。


それだけで分かる。


人間に見えても、人間ではないと。


「あの…、貴方は一体…」


「人間などに名乗る必要はない」


そう言いながら、青年は去ろうとした。

が、ピタリと足を止め小夜に振り向く。


「……人間の女、貴様は…本当に人間か?」


と、向いた途端におかしな質問をする青年。


「人間です。…見て分かりませんか?」


「…人間の匂いはする。だが女、貴様の匂いは…酷く薄い…」


匂いと言われ、思わず首を傾げて自分の匂いを嗅ぐ。


よく分からない…


「…えっと、どういう意味でしょうか?」


「…フン、まぁいい。私には関係ないことだ」


そう言って青年はフワリと空を飛び去ってしまった。



「待って!…って、行っちゃったよ…」


あの人も妖怪ならば、何故助けてくれたのだろう?


というか、妖怪の世界にでも来てしまったのだろうか?


「と、とにかくここから抜け出さなきゃ…」


また化物に出会したら、今度こそ終わりだ。


小夜は震えを抑えながら、また歩き始めた。



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