夢_Short

□クリスマスイブ(三井_大学生)
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きっとこの日に誘われたことに意味なんてない。

一緒に見に行こうぜと言われたその試合の日付はクリスマスイブ。街中は当然浮かれていて心の片隅で期待してしまう自分がいる。

三井は、といえばいつもの調子で後輩たちの活躍を褒めたり、まだ足りねえ俺の方がすごかったと張り合ったり、とにかく普段通りだ。

このクリスマスイブの雰囲気に流されて自分たちだってちょっとぐらい…そんなことを考えるだけ無駄だった。三井はこういうヤツなのだ。

ただの高校の時の同級生をバスケを見に誘った、その日がたまたま土曜日のクリスマスイブだった、それだけなのだ。

「なあ、聞いてんのかよ」

「え?何?ごめん聞いてなかった」

途端に三井の眉間にしわが寄る。

「お前、行きたいんじゃなかったのかよ」

「何が」

三井は数百メートルにわたるイルミネーションの施された大通りの名を挙げた。少し前にテレビで見かけて、青いイルミネーションの幻想的な雰囲気を一度見てみたいと思った、その場所だ。ここから徒歩ですぐのその場所に行くか、と三井はもう一度私に聞いた。

「どうせ暇だしよ、そのまま散歩してメシでも食ってこうぜ」

唐突に言って私の返事に構わず三井は歩き出した。

「ねえ」

「んだよ」

「何で?」

「何がだよ」

「何でイルミネーションなんか見に行くの」

「だってお前が行きたいって言ってたから」

そんな特集をテレビでやってた、見てみたいな、そのぐらいのことしか言った記憶はない。

「それにご飯食べるって」

「腹減らねえの?」

「減ってないわけじゃないけど…」

街路樹に飾られている青と白のイルミネーションが大通りの遊歩道を彩っている。クリスマスイブと週末が重なり人通りはかなり多く、その大半はカップルだ。

「つべこべ言ってるけど嫌なのかよ」

周りは皆いい雰囲気なのにそれにそぐわない喧嘩腰の三井の言葉に首を振る。

嫌なわけない。

でも、これじゃあまるで、デートみたいだ。

期待なんてしちゃダメなのに、勝手に期待してしまう。口は悪い癖に背は高くて、実は顔もかっこよくて、バスケの上手い三井がーー


「好きだ」


耳に飛び込んできた言葉に思わず心の声が漏れたのかと思って見上げたら信号待ちの横断歩道の前で三井がこちらを見降ろしていた。

「え……」

訊き間違えだろうか。見上げていると、もう一度好きだ、と真顔の三井が言った。

「今更言わなくても分かってると思ってたけど、お前、何にも分かってなさそうだから」

そう言うと三井はポケットに突っ込んでいた手を出して私の手を取る。冷えていた指先に三井の指先が絡む。

「そうじゃなきゃこんな日に誘ったりしねーよ」

ぶっきらぼうに言って三井は視線をそらした。

「三井って、そういうイベントとか気にするタイプの人だったんだ」

「…悪ぃかよ」

「悪くない」

じゃあ散歩してメシ行こうぜ、そう言って三井は私の手を引っ張った。

2022.12.21


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