夢_Short

□#7月7日は(仙道2年)
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最後に会ったのは5月の連休の一番最後の日。体育館の都合で午前中だけで練習が終わったその日、会いにいった。

どんな話の流れだったか、覚えていない。ただ彼女は俺が電車に乗る別れ際、「もういいよ」と言うと電車の扉が閉まる直前に背を向けた。その言葉の意味を確かめる間もなく、電話をしても出て貰えないまま、すぐにインターハイの予選が始まってしまった。

毎日が必死で、その瞬間は何も考えずにいられるのに、ふとした瞬間にあの別れ際の表情が脳裏をよぎった。

会って、ちゃんと話したい。
気持ちを確かめたい。

胸にいつも何かがつかえているような気持ちのまま、インターハイ予選の決勝リーグに進んだ。

一番の強敵である海南大附属には引き分けの末敗れ、最後のひとつの枠を争った湘北との試合でも負けて、陵南の夏は一足早く終わってしまった。

インターハイへと向けた練習はいつものメニューに戻り、隙間の無かった気持ちに僅かばかりの余裕ができると、また思い出してしまう。

お前がキャプテンなんだぞ、やる気を出せと言われても、早々にやる気が出ずに練習を抜け出してしまうことも度々だった。

7月7日、来週から定期テストで今日から部活の時間はいつもより短い。サボっても大した影響はないだろう。何か言われたら補習だったとか言っておけばいいか。そう思って、珍しく早い時間に教室を出て体育館に寄らず外に出た。

さっきまで降っていた雨はもう上がって晴れ間がのぞいている。
海からの湿度を含んだ温い風が柔らかく肌を撫でた。

……このまま、彼女に会いに行ってしまおうか。

今出れば夜になる前に着く。一度沸き上がるとその想いは消せなくて、足早に校門まで歩いていくと陵南ではない制服姿が校門の傍らに見えた。こんな目立つところで待つとは随分勇気ある子だな、と思って近づいていくとその姿には見覚えがあって。

身体中の血が熱を持つのが分かった。

表情が分かる距離に来ると、会いたかったその顔が、俺を見てはにかんだように笑った。

「来ちゃった」

そのひとことで、十分だった。七夕だったし、と小さな言い訳をするのが愛しくて、気づいたら腕が彼女を抱きしめていた。

彰くん、と呼ばれる。懐かしい響きを噛みしめていると腕の中にある肩が震えていた。シャツの胸のあたりがあっという間に濡れていく。

「俺も」

彼女の髪に顔をうずめた。

「今から会いに行こうって、思ってた」


2021.7.7(了)
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