夢_Short
□#7月7日は(仙道2年)
1ページ/4ページ
電車を乗り継いで1時間半。密集したビルと住宅街を抜け、川を渡ると、窓の外の景色が見知らぬものに変わっていく。
学校を早退したその足で電車に乗ってしまったから制服のままだ。
着替えてくればよかった、と思ったけれど、そんなことが過ぎらないくらい、必死だった。週刊バスケットボールに、仙道の写真と記事を見つけたから――。
ついこの間終わったばかりの、インターハイ神奈川県予選が特集されていた。
『敗れた陵南の天才プレイヤー仙道彰』
見出しの一行は、酷く、心を揺さぶった。
JRを下りて、私鉄に乗り換える。ゆっくりと走る路面電車が、閑静な住宅街を抜けると同時に窓の外には海と空とが同時に広がった。
ついさっきまで雨だったのに、雲の合間からは太陽がのぞいていて、水面がきらきらと反射している。海が輝くというのは本当だったのか。
私の好きだった仙道は、こんなところに居るんだ――。
陵南高校前駅は本当に目の前が海だ。
下りれば鼻先を潮風がくすぐる。
ぱらぱらと陵南高校の方から制服姿の生徒たちが歩いてくる。
ひとりだけ全く違う制服姿の自分を恥ずかしく思いながら、駅へ向かう生徒と逆方向に、陵南高校へ向かって歩いていく。
一歩ずつ坂を上りながら、祈る。
どうか、私たちがまだ終わっていないのなら、ここで仙道に逢わせて――。
角度の急な坂道を上った先に陵南高校の校門はあった。
その先に目を凝らすのが怖い。
約束なんてない。
それでも。
終わったのか終わってないのか分からない関係は、逢いにいかなきゃ始まらない。
天の川のこっち側で、ただ晴れるのを待ってなんかいられない。
顔を上げる。
沢山いる生徒の中、背の高い、特徴的な髪型が見えた。
はっきりと顔が分かる距離で、仙道が立ち止まった。
「会いに、来ちゃった」
七夕だったし、と言うと見上げた顔が破顔した。
「会いたかったから」
言葉が終わるより前に、急に視界が暗くなった。
温かいものに包まれて、それが懐かしい仙道の体温だと分かったとき、午前中に降っていた雨のような涙が目から溢れるのを感じた。
2021.7.7(了)