青の福袋

□浄めの旅(前編)
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「こ〜んなくっら〜い所にいるからいつまで経っても力が抑えられないんじゃないの?」

それは突然差し込んだ光。

「アタシが力抑えるの手伝ってやるからさ、アンタもアタシの事手伝ってよ」

誰も差し出してはくれなかった手を目の前の少女は躊躇いなく差し出してくれた。
小さく華奢なその手に己の手を重ねた時、彼―――ヴィンセントは誓った。
どんな時でもこの少女を守ろうと。
自分のような存在に恐れる事なく手を差し伸べる少女を必ず守ると―――。



「・・・そう思っていたんだがな」



ヴィンセントは目の前の光景に呆れたように深く溜息を吐いた。

「へっへーん、まいどあり〜!」

巫女服に身を包む少女・ユフィは満面の笑みでお金を受け取ると上機嫌にそう言った。
受け取ったお金はモンスターを退治した料金である。
危険を冒して村の人々を困らせるモンスターを退治したのだから別に問題はないのだが、それにしたってここの所そういった類のお金を貰い過ぎなような気がする。
確かに旅をする上でお金は必要だが今はそれほど困窮はしていない。
それでも少女がこうして何かとお金を頂こうとするのは生来の強欲さに起因しているのだろうとヴィンセントは推測する。

「ユフィ、そんなに金を貰う必要はないんじゃないか」
「はぁ?何でよ。お金は沢山あればそれでいいじゃん。何がダメなんだよ」
「必要最低限で十分だと言っている」
「必要最低限っていくらよ?アンタに服を破られた時の予備購入代を入れるとどんだけの額になると思ってんだよ!」
「・・・」

ぐうの音が出ないとはこの事か。
ヴィンセントは訳があって体内に魔獣とカオスと呼ばれる古の妖を宿している。
魔獣はなんとか制御して魔獣の姿をしつつも己の意思を保てているのだが、カオスになると途端に意識を乗っ取られて暴れてしまうのだ。
特にカオスは己を法力で封じているユフィを一番最初に狙って襲い掛かる。
その為、襲われて避けるのに必死なユフィは毎度毎度服を破られて苦労しているのだ。
その事を指摘されてはヴィンセントに返す言葉はない。
ないのだが・・・

「さ、無駄口叩いてないで団子屋行くぞ〜」

その団子代は服代に回さなくていいのかと言いたかったが敢えて我慢するヴィンセントなのであった。












「ん〜!団子美味しい〜!」

訪れた団子屋で二人はまったりと団子を食べながら熱いお茶を飲んでいた。
先程までユフィに対して呆れていたヴィンセントも、頬を掠める柔らかな風と団子とお茶を味わった事でなんだかどうでもよくなり、深く考えるのをやめた。
今はただこうしてのんびりするのも悪くない。

「それにしても悩ましいな〜」
「何がだ?」
「このままヴィンセントとのんびり旅がしたいけどそういう訳にはいかないじゃん?」
「・・・ああ、お前を早く国に帰さなければならない」
「それはいーんだよっ。そっちじゃなくてヴィンセントの妖を追い払う方だよ。しんどいでしょ?」
「まぁ・・・な」

長年妖を体内に飼っている所為で妖と半分同化していると、とある神社の老人に言われた。
このまま妖と同化してしまうと妖に魂を食われて凶悪な魔物となって人々を襲う存在になるとも。
それだけは避けねばならないし、何よりも付き合ってくれているユフィを早く解放してやらなければならない。
ユフィはウータイを治める一族の跡取りであり、またウータイを守る巫女でもある。
度重なる見合いに嫌気が差してウータイを飛び出して来たとはいえいつまでもこうしている訳にもいかない。
だからといって離れるのも何となく気が進まないのだが。

「神社のおじいちゃんは召喚獣を奉ってる神社を回って清めれば〜なんて言ってたけどウチのとこみたいにする訳にはいかないしね〜」

そう言いながらユフィは首にかけていた赤くて丸いペンダントを手に取って苦笑する。
ヴィンセントの中の妖を抑える為にとウータイの守り神・リヴァイアサンの力を使った結果、全ての力を使い果たしてしまったようでリヴァイアサンはマテリアと呼ばれる宝石になって眠りに就いてしまったのだ。
ちなみにユフィがウータイを飛び出した理由にはお見合いの他にリヴァイアサンの事を隠すのも含まれている。

「・・・すまない」
「ヴィンセントが悪いんじゃないって!それにリヴァイアサンがこんな風になるくらいだからかなり凶悪な妖だって事だしさ」
「後は『四霊の泉』巡りだが・・・」
「それ無理でしょ。あそこに行けるのって仙人アレシアに招かれた人かその子供たちと縁のある人だけだって言うし。
 水神様を奉るウータイの巫女のアタシといえど相手にしてくれるかどうか―――」

「巫女だと?」

ユフィとヴィンセントの会話に一人の男の口が挟まれる。
誰だと思って振り向けば、強面で金髪のオールバックの男がやや厳しそうな顔つきで佇んでいた。

「誰アンタ?」
「俺は仙人アレシアの子供のキングだ」
「はぁっ!?ちょ、え、うそぉっ!?」
「落ち着けユフィ。仙人の子供だという証拠はあるのか?」
「これだ」

そう言って男―――キングは手首に着けているブレスレットを差し出して見せた。
朱の数珠が連なる中、一つだけ不死鳥の紋章が刻まれたクリスタルの珠がある。
それを見てヴィンセントは「・・・確かに」と呟く。
仙人アレシアの子供はアクセサリーを身に着けており、それにはクリスタルで作られた珠の中に不死鳥の紋章が刻まれているという話は常識である。
しかもその不死鳥の紋章というのもクリスタルの中で炎を宿しており、常に燃え盛っているという。
キングが見せたクリスタルの珠の中の不死鳥も衰える事なく燃え盛っている。
つまりレプリカを作って仙人アレシアの子供を名乗るのは不可能だという話だ。

「うわマジだ・・・でもその仙人の子供がアタシたちに何の用な訳?」
「折り入って頼みがある。今すぐ助けて欲しい奴がいるんだ」
「助けて欲しい奴?」
「俺の連れだ。特殊な呪いをかけられて苦しんでいる。アンタ巫女なんだろ?頼む、助けてくれ」
「そりゃ大変だね。いいよ、助けてやるよ!その代わりに後でアタシたちのお願い聞けよ!」
「いいだろう。こっちだ」

キングに導かれ、二人はキングの連れが苦しんで寝込んでいる場所へと向かった。
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