青の福袋

□カオスと過ごす休日
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「・・・へ?」
「我もこの男もお前という人間は好みだ」
「なんでそういう結論になるんだよ!!」
「嫌なのか?」
「嫌じゃないけどそーじゃなくて!て、ていうかアンタとそういう事する訳にはいかないし・・・」
「外見はこの男のものだから何も不都合はないだろう?」
「外見はヴィンセントでも中身はアンタじゃん。それは浮気みたいっていうか・・・」
「お前の言い訳なんぞは知らん。人間の雌の体を知る為にも触らせろ」

そう言ってカオスは無遠慮にユフィの太腿を撫でた。
ヴィンセントであってヴィンセントでないその触り方にユフィは「うひゃぁっ!?」と悲鳴を上げると素早くカオスの腕の中から脱出して距離を置き、触られた太腿を抑えながら怒鳴った。

「きゅきゅきゅきゅきゅーに触るなばかっ!あほっ!変態!!」
「この男に触られてる時は逃げないのにおかしな女だ」
「はははぁっ!?な、なんで知ってるのアンタ!もしてかして見てんの!!?」
「たまに意識を乗っ取ってやろうと思ったらお楽しみ中だったりするからな。これは不可抗力だ」
「不可抗力なもんか!ヴィンセントの中で大人しく永遠に眠ってろ〜!!」
「やれやれ、冷たい女だ」
「ふつーの女は好きな人以外の男に触られたくないんだよ!浮気してるみたいで嫌なんだよ!!分かったか!!」
「つまり、嫌がれば嫌がるほどやる方は楽しくなるという訳か」
「ドS思考やめろ!!」
「では足だけでも触らせろ。お前の足は中々のものだ」
「アタシの足が好きなとこも共通してんな・・・とにかくお触りは禁止!
 人間界の常識が分かんないアンタは教育番組でも見ておべんきょーでもしてな」

リモコンに手を伸ばして幼児向け教育番組を点けるユフィ。
番組では丁度、歌のお姉さんと複数の子供たち、マスコットキャラの真っ赤な犬と真っ青な猫が躍っている所であった。
それが珍しいのか気になるものがあるのか、カオスはしばらくその映像を注視してから一言。

「・・・このモンスターたちが受け入れらてるなら我やガリアンも受け入れられるのではないか?」
「モンスターって・・・これマスコットキャラ。しかもちゃんと犬と猫っていう動物だし」
「真っ赤な犬と真っ青な猫は動物ではなくモンスターだと思うが?」
「変な所で人間界の常識知ってんな・・・」
「それにガリアンの毛並みは上等だぞ?ヘルマスカーもデスギガスもああ見えて話の分かる面白い奴らだ」
「え?え?何アンタら、ヴィンセントに隠れてなんか話とかしてんの?ていうか出来るの?」
「毎日のようにしている」
「それ、ヴィンセントハブってんの?」
「あの男が意識の主導権を握っている時はどう足掻いても我らの会合には立ち会えん」
「逆に言うと今アンタが意識の主導権を握ってるって事はヴィンセントは会合に出てるって事?」
「そうなるな」
「・・・後でヴィンセントにどうだったか聞いてみよっと」
「ところで他に何か面白いものはないのか」
「う〜ん・・・あ、そーだ!ちょっとこっち来てよ!」

ユフィは何かを思いつくとカオスの手を引っ張って寝室へと通した。
そこで待ってろと言われてベッドに座りながらユフィの行動を見守るカオス。
何やらタンスを漁っているようで、数分待っていると「『へのもへ』文字が印字されたTシャツが取り出される。
にんまりと笑うユフィにカオスは首を傾げると尋ねた。

「それは?」
「アタシがヴィンセントの為に面白く・・・じゃなくてすっごく似合うと思って買ったTシャツ!
 だけどヴィンセントが着てくれなくてさ〜。代わりにアンタが着てよ!後でアタシも何か着てやるからさ!」
「・・・」

言われるがままにカオスはユフィから差し出されたTシャツを着る。
真っ白なTシャツの全面に印字されている『へのもへ』文字を無言で眺めるカオス。
そしてそれを見て大爆笑するユフィ。

「あっはははははは!似合う似合う!!最高!!」

腹を抱えてユフィは床の上を転げまわる。
恐らくおかしな柄を着ている『ヴィンセント』に笑っているのであってカオスを笑っている訳ではない・・・筈。
しかしそれでも自分も含めて笑われているような気分がしてカオスは無言で顔を顰めた。
そして―――

「あははっ!あは、え、なに・・・いたっ!!」

右足の太腿の裏を思いっきり噛まれた。
それこそ歯形が残るくらいくっきりと・・・。

「なっ!?何して・・・!」
「このおかしな服を着てやった報酬と仕返しだ」
「報酬って・・・後で何かの服着てやるって言ったじゃん!」
「我は承諾していない。それではな」

短く言い残すと、ふっとヴィンセントの体からカオスの気配が抜けた。
抜け殻となったヴィンセントの体はそのまま重力に従って倒れこみ、ユフィの体の上に覆い被さる。
成人男性の大きく重たい体がのしかかってきてユフィは小さく呻くが、カオスの気配が消えた事にホッと一安心する。

「カオスは帰ったみたいだね」
「っ・・・ぅ・・・」
「お、ヴィンセント。起きたかー?」
「・・・ユフィ・・・?私は一体・・・」
「カオスに乗っ取られてたんだよ」
「カオス・・・またか・・・」

疲れたように溜息を吐くとヴィンセントは体を起こしてユフィを見下ろした。

「何かされたか?」
「大した事はされてないからへーき。むしろ色々面白い発見があったよ」
「面白い発見?」
「そ!後で・・・ぷっくく・・・話して・・・くく・・・あっははははは!!」
「?」
「もーダメ!おっかし〜!!」

ある一点を指さしてユフィが大笑いするのでそれを追って見下ろすと・・・『へのもへ』の文字が。
意識を失う前は確実にこんなTシャツを着ていなかった筈。
それどころかタンスの奥に封印していた筈だ。
カオスはああ見えて人間の事について知らない事もある。
大方ユフィに乗せられて着る事となったのだろう。
そしてカオスがやられて終わるなどありえない話で・・・。

「・・・カオスにどんな取引をして着てもらったんだ?」
「取引だなんてそんな大袈裟な〜!これ着てもらう代わりに好きな服着てやるよって言っただけだよ」
「それで?何を着てやったんだ?」
「それはー・・・そのー・・・」

ユフィは目を泳がせるがヴィンセントには全てお見通し。

「『歯形』を着てやったのか?」
「ち、違う!それはカオスが勝手に・・・!」
「大方カオスが承諾をしていないのに一方的に取引をして笑って、仕返しに噛まれたのだろう」
「うぐっ・・・やけに的確に当てて来るじゃん・・・」
「バカな取引をしてしっぺ返しを食らうとは・・・教育が必要なようだな」
「ご、ごめんってばヴィンセント!遊んで悪かっ―――」

長時間に渡って行われた“教育”を勿カオスはヴィンセントの内側から見ていて、ガリアンたちと共に肴にして笑ったという。











END
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