青の福袋

□風邪の看病
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「ごほっごほっ!うぅ・・・」
「まだ良くならないな」
「ホント、最近の風邪は性質が悪いですね」
「・・・は?」

ある日の昼下がり。
ユフィは風邪を引いて寝込んでおり、それをヴィンセントが一生懸命看病していた。
そして更にネロがユフィの横で添い寝をしていた。

「おかしいだろ!!」
「おぐっ!!」

げしっとネロを思い切り蹴飛ばしてベッドから追放するユフィ。
大義である。

「大義じゃありませんよ。折角看病しに来たというのに酷いじゃないですか」

「酷いのは病気で弱ってるのをいい事に寝込みを襲おうとして来るアンタだよ」

「あっ!襲う!その手がありましたね!!」

「言うんじゃなかった・・・ヴィンセントたすけて〜」

手を伸ばしてパタパタと上下に振ればヴィンセントがベッドの縁に座って優しく頭を撫でてくれた。
大きくて優しいこの手はいつでもユフィを安心させてくれる。

「殺されたくなければ今すぐ立ち去れ」

「嫌です。貴方の命令は聞きませんよ。僕は風邪を引いたユフィを看病しに来たのですから。
 それにホラ、こうやってお見舞い用の果物だって買ってきたんですよ」

そう言ってネロは様々な種類の果物が入ったカゴを二人に見せた。
きちんと透明のビニールが被せてあり、持ち手にはピンクのリボンが結ばれていた。
果物の量から見ても中々の値段がするものであろう。
これがネロでなかったら喜んで受け取っているのだが・・・。

「悪いけどいらないよ。何仕込まれてるか分かんないし」

「何も仕込んでなんかいませんよ。めちゃくちゃ高かったのに仕込む訳ないじゃないですか」

「え?それ自腹?」

「そうですよ。流石に経費で落ちませんでした」

「ディープグラウンドにも経理とかってあるんだね」
「そのようだな。しかも意外にしっかりしているようだ」

「仕方ありません。これは僕と兄さんの食後のデザートとして食べます。
 後で食べたいって言ってもあげませんから。お母さんもう怒りましたから」

「なんでお母さんになってんだよ」
「さっさと帰ってその大好きな兄と食べて来い」

「相変わらず塩対応ですね。ちょっとくらいお話しましょうよ」

「風邪でしんどいからヤダ」
「勝手に話していろ。私は本を読んでいる」

「冷たいですね。仕方ありません。一度家に帰りましょう」

シュワッとネロは闇に飛び込んでディープグラウンドへ帰って行った。
それから数秒様子を見てユフィとヴィンセントは顔を見合わせた。

「・・・行ったかな?」
「恐らくはな。だが油断は出来ない。私はお前の分のお粥を作ってくる。何かあったらすぐに呼べ」
「んー分かったー」

ポンポンと頭を撫でられて安心する。
安心したら眠くなってきた。
ヴィンセントが立ち上がるのと同時にユフィは眠気に襲われ、静かに瞼を閉じた。
しかしそれから数秒もたたない内に闇の空間が現れ、ネロが静かに姿を現した。

「・・・行ったようですね」

「・・・」

「やっと二人だけになりましたね、ユフィ」

「・・・」

「少し、昔話をしましょうか。僕、昔風邪を引いた事があるんですよ。
 フラフラして体が怠くて熱くて・・・でも看病してくれるのは兄さんしかいませんでした。
 他は隙あらばと寝首を掻きに来て、兄さんはそんな奴らを殺しつつ僕の面倒を一生懸命見てくれていました。
 その時に僕は誓いました。兄さんにまた迷惑をかけない為にも病気にならないと。ただ・・・」

そっ・・・とユフィの頬に触れる。
普通よりも熱いそれは、手の冷たいネロには心地良く感じられた。
熱にうなされて浅い呼吸を繰り返すユフィを見下ろしながらネロは瞳の奥の闇を深め、包帯の下の口元を歪めた。

「貴女がいれば病気の心配をしなくて済む。僕や兄さんが風邪を引いたりしても貴女が看病してくれれば安心です。
 心配しなくてもユフィは僕と兄さんが守りますよ。いつまでも・・・永遠に・・・」

「そこまでだ」

ガチャン、という重い鉄の音がネロの耳元に響く。
冷たい殺意を顕にする背後の男にしかしネロは動じる事もなく静かに溜息を吐いた。

「貴方という男は本当に人の邪魔をするのが好きですね」

「それはお前の方だ。何度ユフィに手を出そうとすれば気が済む」

「勿論手に入れるまでですよ。身も心も全て、貴方から奪い取るまで、ね」

「その前に今すぐお前の息の根をここで止めてやろう」

「返り討ちにしてやるますよ」

「・・・うっさいんだけど・・・」

薄く目を開いたユフィがネロとヴィンセントを睨む。
しかし顔は未だ赤く、気怠げにしている所を見るとまだ熱は下がっていないようである。

「すまないユフィ、起こしたか」
「起きちゃったよー・・・」
「お粥を作って来た。食べるか?」
「食べるー」

ノロノロと起き上がるをユフィを隠すようにしてヴィンセントはベッドの縁に座り、お粥を差し出す。
しかしその一連の動きに一切の隙はない。
戦いを持ちかけた所ですぐに反撃される事だろう。
ネロはまた面倒臭そうに溜息を一つ吐くと闇の空間を出現させて帰る準備をした。

「今日はこの辺で勘弁してあげましょう。また来ますね」

「来なくていいぞ〜」

「いいえ、来ますよ、ユフィ。今度は風邪が治って元気になった貴女の姿を見なければならないのでね」

「来〜る〜な〜」

「では、また後日・・・」

ネロは怪しげな笑みを残すとそのまま闇の中へと消えて行った。
その場所を睨むように見つめながらヴィンセントはユフィの食べ終わった皿をテーブルの上に乗せるとユフィを寝かしつけにかかった。

「ユフィ、薬を飲んで眠れ」
「んー」
「今日は傍にいる。安心して眠るといい」
「うん・・・お休み、ヴィンセント」

ユフィはふわりと微笑むと瞬く間に夢の世界へと旅立った。

「・・・・・・全く・・・」

盛大な溜息を吐いてヴィンセントは脱力する。
今回のようなやり取りは今日が初めてではない。
本当に隙あらばユフィを奪っていこうとするから気が抜けない。
ユフィの心が動く事はないのは分かっているが、それでも気が気でなくなる。
自分とユフィに心の平穏がもたらされる日は来るのだろうか。

「早く諦めて欲しいものだな」

ユフィの手の甲にそっと口付けを落とすとそのまま手を握ってその寝顔を見守った。











END
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