赤の福袋

□甘えん坊の朝
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「ん・・・朝か・・・」

ふと目が覚めてゆっくりと起き上がる。
緩く首を動かして時計を確認すれば時刻は10時近く。
流石に寝すぎただろうか。
いや、遅くに起きるのは覚悟の上だったではないか。
特に用事がない、のんびりとした休日をこうやって使おうと決めたのだ。
勿論、ユフィと―――。

「・・・おはよう、ユフィ」

起こさないように小さな声で朝の挨拶をして隣で眠る愛しい恋人の髪を手で優しく梳く。
ぐったりとしていて疲れの色も浮かんでいるがどこか幸せそうにも見える。
その姿に申し訳無さを感じつつもヴィンセントは満たされた気持ちでいっぱいだった。
昨夜、枕に必死にしがみつき、無意識に逃げようとするユフィを捕まえて自分が満足するまで何度もその華奢な体を揺らした。
穿てば穿つほどユフィは愛らしい声で鳴き、深く自分を求めてくれた。
そうした営みは明け方まで続いたのもあり、ユフィこうして熟睡してしまっているのである。
こうなってしまった時のヴィンセントがとる行動は一つ。

(今日は存分に甘やかすか)

恐らく腰砕きで動く事も適わないだろうから今日の家事は全部自分が引き受けるとしよう。
そしてユフィのお願いやわがままを叶えてやるのだ。

(とりあえずコーヒーを飲むか)

まだぼんやりと夢見心地な頭をスッキリさせるには熱いブラックコーヒーが一番。
静かに布団から抜け出して音を立てぬように部屋を出ようとするが―――

「・・・・・・おれんじ・・・」

「ん?」

「・・・おれんじ・・・じゅーす・・・・・・すろとーつきで・・・」

やや驚いて振り向けば、体を丸めてタオルケットに包まりながら寝ぼけ眼でユフィがリクエストをしてきた。
いつもだったらミルクと砂糖たっぷのコーヒーをリクエストするのだが、どうやら今日はオレンジジュースの気分らしい。
情熱的な夜を過ごした後に飲む物としてはいささか情緒に欠けるがそんなものは寝起きで舌足らずなユフィの前では些末な事。
朝から愛らしいユフィを早く抱きしめたい衝動からヴィンセントはすぐにコーヒーとオレンジジュースを用意しに行った。







「ん〜、オレンジのさっぱりとした味が身に染みるね〜」

ヴィンセントの逞しい胸に寄りかかりながらユフィがコメントを零す。
そんなユフィを片腕で大事そうに抱き寄せながらヴィンセントは静かにコーヒーを飲む。
ユフィと同じで、熱いブラックコーヒーが激しい運動をした後の体に染み渡る。

「コーヒーを飲まないとは珍しいな」
「今日はさっぱりとしたものを飲みたかった気分だったんだよね〜。誰かさんの所為でちょ〜疲れてるし?」
「それは悪かった」

言って予告も無しに生意気な唇を奪う。
ほんのりと香るオレンジに誘われて中に割って入り、自分の舌を潜り込ませる。
オレンジの甘さとさっぱりとした味が体に優しく染み渡ってユフィの感想もなんとなく頷ける。
ちゅっ、と最後に熟れた唇を吸ってから離れると恨めしげに潤んだ黒の瞳がこちらを見上げて可愛い恨み言を吐いた。

「・・・コーヒーが混ざって変な味になっちゃったじゃんかコノヤロー」
「またオレンジジュースを飲んで流し込むんだな」
「もーないよ。口直しをよーきゅーするー」

こつんと結露した冷たいグラスを当てられ、暗におかわりを要求される。
しかし今はユフィの要求よりも自分の欲望の方が勝る。
だからコーヒーを置いてユフィの顔を上向け、また口付けをした。
今度は深く、蹂躙するように・・・。

「ふぁ・・・んっ・・・」

逃げ惑うユフィの舌を捉え、じっくりと丹念にコーヒーの味が馴染むように絡めて吸い上げる。
深みを増していくユフィの甘さに夢中になっていたかったが、抵抗がなくなってトロンとしてきた瞳を見たらそうも行かず。
仕方なく解放してやる事にした。

「ぷはっ!・・・はぁ・・・はぁ・・・口直しってそーいう意味じゃな〜い」
「・・・そろそろ朝食にするか」
「無視すんなコノヤロー」
「とりあえず服を着るぞ」
「んー・・・ヴィンセントの服、ちょーだい」
「なら、私は別の服を―――」
「だめー」
「何故だ」
「ドラマとかであんじゃん。彼氏が上半身裸でってシチュエーション」
「・・・フッ、仕方あるまい」

リクエストにお答えしてユフィに自分のシャツを手渡し、自分はレザーのパンツだけを履く。
そうして立ち上がって振り返り、両手を広げて甘えてくるユフィを抱き上げた。
これは愛を重ねた翌朝のお決まりでヴィンセントはいつもこうやってユフィを朝食の席まで運んでいるのである。
ちなみに朝食の席に運ばれるまでの短い間にユフィはヴィンセントの首に腕を巻き付けてその白い首筋に軽いキスの雨を降らす。
これもお決まりでヴィンセントの密かなお気に入りだ。

「すぐに作るから待っていろ」
「ん〜、よろしく〜」

椅子に下ろす時に今度はユフィの方から軽くキスをしてくる。
全くこの甘えん坊は、などと思いながらも椅子に下ろして小さな頭を撫でてやる。
本当はもっと甘やかしてやりたかったがユフィの可愛らしい腹の虫が空腹を訴えたので早急に朝食作りに取り掛かった。
メニューはベーコンエッグとサラダ、それからヨーグルトとパン。
手早く作って朝食の席に並べれば満面の笑みを浮かべてユフィがフォークを手に取った。

「いっただっきまーす!」
「いただきます」
「・・・ん〜!やっぱ朝はベーコンエッグだね!」
「そうだな」
「梨も美味しいけどもう終わりだね〜」
「名残惜しいが次の季節の果物を楽しむとしよう」
「だね。あ、でも秋だから栗が旬だね〜。栗拾いの時期になったら休みとって行こっ!」
「ああ」
「楽しみだな〜ってとこで、ごちそーさま!片付け頼んでもいい?」
「ああ、任せろ」

丁度同じように食べ終わったヴィンセントもフォークを置くとユフィを抱き上げてソファに座らせた。
いつもであれば二人で片付けるのだが、こういう日は別。
ユフィをソファに座らせて自分はさっさと洗い物と洗濯物を片付ける。
それらを片付けた後は本を持ってきて同じくソファに座る。
すると自然な動きで当たり前のようにユフィがコロンとヴィンセントの膝の上に寝っ転がってくるのだ。

「ヴィンセンとー、お昼はラーメンがいい」
「先程朝食を食べたばかりだろう?」
「記事読んでたらラーメン食べたくなったんだよ〜」

ユフィの手に握られているスマホに目を向けてなるほどと頷く。
けれどまぁ、ユフィからのリクエストなら仕方ない。
ヴィンセントは了解したという意味を込めてユフィの頭を優しく撫でた。

「具は何がいい?」
「チャーシューってあったっけ?」
「残りが少しあったと思うが」
「んじゃそれ半分ずつね。あと半熟卵食べた〜い」
「わかった、作ろう」
「よろしく〜・・・zzz」

ヴィンセントの膝に一度頬ずりしてからユフィは再び眠りに落ちた。
そんなユフィに愛しさを胸いっぱいに募らせてヴィンセントは薄く笑いながら小さく言葉を零す。

「お休み、ユフィ」

飽きる事なくユフィの頭を撫でながらヴィンセントはあらかじめ用意していた本を開いて読書を始めるのだった。











END
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