赤の福袋

□マント
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「つんつん」
「うひゃっ!?」

ピークが過ぎた午後のセブンスヘブン。
カウンター席でプリンアラモードを食べていたユフィは剥き出しの腰を突かれて大きく跳ね上がった。
危うくスプーンを落としそうになったがすぐに握り直し、バッと左側を向いた。
突かれた腰は左側、つまり突いた犯人は左にいるという事だ。
しかし左の席にいるのは静かにコーヒーを飲むヴィンセントのみ。
あのヴィンセントが悪戯でユフィの腰を突く事なんしてしない、「つんつん」なんてもっと言わない。
言うとしたら子供だ、それに悪戯の内容を考えても子供しかいない。
となると犯人は―――

「「クスクス」」

ヴィンセントの大きな赤マントの下から小さな笑い声が届く。
目を向ければ赤マントの下には子供の足が四本あり、一組には男の子用のズボンが、もう一組には女の子用のスカートが履かれていた。

(はっは〜ん)

犯人の目星がついたユフィはすぐには正体を暴こうとせず、わざと分からないフリをして再びを前を向いた。
すると―――

「つんつん」
「むっ」

また腰を突かれて素早く振り返れば、くせっ毛の男の子がバサッとマントの中に入っていく姿が見えた。
そうしてまた、クスクスと笑い合う声が聞こえてくる。
しかし忍び笑いをしているのはユフィも同じ。
ユフィはまた分からないフリをして前を向く。
そして―――

「つんつん」
「マリンみっけ!」

ユフィの腰を突いていた犯人の一人―――マリンを捕まえると膝の上に乗せてがっしりと抱きしめた。

「もう逃げられないぞ〜!」
「きゃ〜!」
「あー!マリンが捕まった!」
「くらえ〜!ぎゅ〜!」
「あはは、苦しいよユフィ!」
「マリンの次はデンゼルだかんね」
「お、俺はいいよ!」
「だ〜め!アタシに悪戯した罰だよ!」
「はい、次デンゼルだよ!」

降ろされたマリンはデンゼルの背中を押すとユフィの前に立たせた。
するとユフィは予告通りデンゼルを膝の上に乗せるとマリンと同じように強く抱きしめた。
苦しい事よりも照れくささが先立ってデンゼルは「や、やめろよ〜!」ともがく。
しかしそうやってもがけばもがくほどユフィは調子に乗ってしまい、マリンよりも長くデンゼルを抱きしめるのであった。
こういう所はユフィもまだまだ子供だな、と優雅にコーヒーを飲みながらヴィンセントは心の中で呟く。
デンゼルへの罰ゲームが続行される中、マリンはユフィの隣に置かれたマントを見つけるとユフィに尋ねた。

「ユフィ、今日お仕事あるの?」
「夕方頃にちょっとね〜。このプリン食べたらもう行く感じかな」
「じゃあ離してくれよ!」
「離しませ〜ん!」
「ユフィ、もうその辺にしてあげたら?」

可愛らしいやり取りにティファが微笑みを浮かべながらユフィを宥めるが、ユフィは悪戯っ子のような笑みを浮かべて首を横に振るのだった。

「や〜だよ!アタシに悪戯を仕掛けた罰なんだから」
「じゃあ私がユフィのプリン食べちゃうね」
「コラマリン!このプリンはアタシのだぞ!」
「・・・少しは静かに出来ないのか」

デンゼルを解放したユフィは素早くスプーンと器を掴むとものの数秒でプリンを平らげた。
その騒がしさにヴィンセントが苦言を呈してもユフィにはどこ吹く風。
財布からお金を出してカウンターに置くとマントを手に取って素早く被った。
極めつけには猫耳のフードも被り、腰に手を当ててカッコつけてポーズなんかも取る。

「ど〜よ?」
「ユフィかっこいい!」
「ありがと、マリン」
「気をつけてね、ユフィ」
「うん!行ってくるね、ティファ」
「ユフィ、またな」
「じゃーね、デンゼル。ほらヴィンセント、行こっ!」
「ああ」

ヴィンセントも同じようにして財布からコーヒー代を出すとユフィと共にセブンスヘブンを出て行った。
そんな二人の背中を見送ってマリンがポツリと呟く。

「二人共、お揃いだね」
「うん、仲良しだね」
「ティファもクラウドとお揃いの服だよな」
「じゃあティファもクラウドと仲良しだね!」
「も、もう!大人をからかわないの!」

しかしそんな事を言うティファの頬は赤く染まっており、余計に冷やかされるのであった。











その頃、二人はエッジの郊外に向けて並んで歩を進めていた。
隣で鼻歌を歌う白猫を見下ろしながらヴィンセントが素朴な疑問をぶつける。

「何故そのマントを買ったんだ?」
「へ?これ?」

自分の白マントの裾を摘んで持ち上げて見せるユフィにヴィンセントはそれだと言わんばかりに小さく頷く。
ユフィは軽く空を見上げながら「うーん、と」と唸ると緩くこちらを振り返って答えを出した。

「アイテム買いに行ったら丁度売っててさ。可愛いじゃ〜ん!って思って買ったんだよ」
「一目惚れという奴か」
「そ!猫が好きなアタシにはピッタリだと思ってさ〜。それにマントとかなんかカッコいいじゃん?
 ヴィンセントが着てるの見てて前々から着てみたいと思ってたんだよね〜」
「私はかっこよさを求めてこのマントを着ている訳ではない」
「いーじゃんいーじゃん。細かい事はナシ!でもアタシとしてはヴィンセントくらい大きなマントの方が良かったんだよね〜」
「何故だ?」
「さっきのマリンやデンゼルみたいに誰か隠せるじゃん。このマントじゃ猫しか隠せないよ」
「仮に隠せるほどの大きさがあったとして、誰を隠すんだ?」
「う〜ん・・・マリンとデンゼル?あ、あとナナキ」
「ナナキは隠すというよりも足元に置いて足を温めたいだけだろう」
「バレたか。なんだったらヴィンセントも入れてあげよっか?」
「私がお前のマントの中に入っていたら犯罪だ」
「ひひひ、そりゃそーだ。逆だったら犯罪にならないのにね」

そう言って急にユフィはヴィンセントのマントをバサッと捲って入ってきた。
そうして赤いマントで自身を覆ったまま顔を出して悪戯っ子のように笑う。

「うんうん、未知の世界って感じでいいね」
「歩きづらいからすぐに出ろ」
「わーってるよ。後少しだけ」

白の猫耳フードを揺らしながら顔を覗かせるユフィに、まるで猫を懐に招き入れた感覚になったヴィンセントはその頭をそっと撫でるのであった。












END
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