赤の福袋

□夏の昼
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ユフィの提案で水鉄砲で遊ぶ事となったヴィンセント。
水鉄砲と水の入ったバケツを手にユフィの家の近くの林に赴く。
到着した所でお互いに一定の距離を空けてそこにバケツを置き、水鉄砲に補給させた。
あらかた補給させた所でユフィがルールの説明をする。

「ルールその1!補給中の攻撃は禁止!
 ルールその2!お互いのバケツを倒すの禁止!
 ルールその3!相手の服をびしょびしょにした方の勝ち!」
「異論はない」
「んじゃ、今からスタート!」

やや急なユフィのスタートを合図に、お互いに水鉄砲を突き出して引き金を引く。
そして水が当たりそうになる直前で二人同時に地面を蹴って目にも止まらなく速さで木々に飛び移った。
背の低い木の枝からユフィはヴィンセントを狙い、背の高い所からヴィンセントはユフィを狙う。
勢いよく、そして細かく放たれる水弾は木の幹や枝、葉っぱに被弾して彼らを潤わせる。
ただの遊びとはいえ本気で興じているので二人共とても楽しそうな表情をしている。

「そこ!」
「甘いな」

地上から枝の上に立っていたヴィンセントを狙った水弾を放つ。
しかしそれは簡単に避けられてしまい、逆に背中を取られてしまう。

「隙だらけだ」
「なんの!」

背中に当たりそうになった水弾を華麗に避けて変わりに数発の水弾をお見舞いする。
が、その動きも読まれて避けられる。
しかしユフィは負けずにヴィンセントを追った。

「待て〜!こんにゃろ〜!」

攻撃の隙を与えまいと容赦なく水弾を撃ち込むが枝から枝へと逃げられて中々当たらない。
だが、ある枝にヴィンセントが飛び移ろうとする途中で一発の水弾をユフィめがけて放ってきた。
しかしそれは的外れな場所に当たってしまい、ユフィに当たる事はなかった。

「ど〜こ狙ってんだよ!」

勝ち気な顔で生意気に挑発してくるユフィだが―――

「うわぁっ!?」

次に踏みつけた枝が水で濡れていた為に滑って落ちてしまう。
ちなみにその濡れていた箇所というのは、つい先程ヴィンセントが濡らした枝だ。
ユフィが次に着地する枝を計算してヴィンセントは狙うと見せかけてワザと外して真の目的である枝を濡らして見せたのだ。
流石はタークスと言うべきか、中々に策士である。
そして勿論、追い打ちをする事も忘れない。

「いって〜!つぅ〜・・・」

落下して地面に体を打ち付けたユフィは転がったまま背中や腰をさする。
しかしそこに一つの紅い影がかかり、何の容赦もなく水鉄砲を突きつけてくる。

「終わりだ」
「まっ―――!」

急いで手元の水鉄砲を構えて引き金を引くがシュッ、シュッ、という空気が押し出される虚しい音しか出ず、ユフィは目を見開く。
それとは対象的に勝利を確信したヴィンセントは水が押し出される確かな手応えを感じながら水鉄砲を連発した。

ビュッ!ビュッ!ビュッ!

「うひゃ〜!ちょ、ちょっとタンマ〜!」
「ナシだ」
「タンマタンマ〜!」

ジタバタと暴れるユフィなど無視して絶え間なく攻め立てる。
その甲斐もあってかユフィの服はみるみるうちにびしょ濡れになって行き、最後には濡れている場所などない状態となった。
その辺りになって漸くヴィンセントの方の水鉄砲も弾切れとなる。

「今のうち!」

ユフィは素早く起き上がるとバケツ目掛けて一目散に走り出した。
そうして滑り込むようにして水鉄砲を突っ込もうとしたが―――

「残念だったな」
「っ!?」

それよりも一足早くヴィンセントの水鉄砲がバケツに突っ込まれた。

「こ、これはアタシのバケツ―――」
「いいや、お前のバケツはあっちだ」

バッサリと切られて補給の終わった水鉄砲を突きつけられる。
しかしユフィは悪あがきをして後出しを持ち出す。

「相手のバケツから補給もアリって事で・・・」
「ダメだ」

ブシュッ!

「んにゃっ!!顔にかけるな〜!」

顔にかけられた水を払って逃走を試みようとするユフィ。
しかしその動きを読まれて手首を掴まれ、容赦なく水弾を浴びせられる。
それは首筋や鎖骨、白い肩、既にずぶ濡れのチューブトップ、くびれた腰や眩しい太腿に当たる。
一方的な攻撃に流石のユフィも面白くなくなって膨れ面をして抗議をした。

「こらー!リンチすんな〜!」
「隙を見せたお前が悪い」

ビュッ

「うひゃっ!?」

お臍に水弾が命中して反射的にビクリと体を震わせ、すぐに手で隠すユフィ。
今度は悔しそうに顔を真っ赤にしてヴィンセントを睨む。

「ヘソを狙うな〜!」
「ならばどこなら狙っていいんだ?」

悪戯っ子のように微笑んでチューブトップと背中の隙間に鋭く水弾を打ち込む。

「やぁ・・・んっ・・・!」

背筋を滑る水にユフィの体はゾワゾワと粟立ち、思わず艶めかしい声を漏らしてしまう。
刹那の快感が過ぎ去った所でハッとなってあたりを見回しながら口元を押さえる。
今は昼間、ましてや林とはいえ、普通に人が来れなくもない場所。
あんな声を聞かれて日にはしばらく外を出歩けない。
人がいないのを確認してからユフィは改めてヴィンセントを恨めしそうに睨んだ。

「いきなり何すんだよ!?誰かに聞かれてたらどーすんのさ!」
「家に連れて帰ってもっと聞く」
「ななな何言ってんのさバカヴィンセント!」
「だが、冗談抜きで一度家に戻らないか?少し目の奥が痛む・・・」
「え?もしかして熱中症?」
「・・・かもしれん。喉も先程からずっと乾いている」

言ってヴィンセントは片手で目を覆って辛そうに息を吐いた。
考えてみれば今日は蒸し暑い日。
いくら林の中は影があるとはいえ、多少の暑さはある。
加えて先程の激しい動きを伴う遊びと水分補給をしないでいたら熱中症になってしまうのも無理はない。
ユフィはずっと水弾を浴びせられていたから涼しかったがヴィンセントは違う。
ユフィが一発も当てられずにいたから涼しくなかったのだ。
これはいけないと思い、ユフィはすぐにバケツの水を捨てて水鉄砲を入れるとヴィンセントを立たせた。

「バケツと水鉄砲はアタシが持つから帰ろ。歩ける?」
「そこまで重症ではないから問題ない」
「ダメダメ!侮ってるともっと悪化するんだから!」

もう一つのバケツも回収してユフィはヴィンセントと共に家への帰路を辿った。
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